決算書に並ぶ利益の額は、その期にいくら仕入れていくら売ったかだけで決まるわけではありません。手元に残った在庫をいくらと評価するか、つまり棚卸資産の評価方法として何を選んでいるかによっても動きます。

その評価方法のうち、実務でよく使われるのが総平均法と移動平均法です。どちらも仕入の平均単価で在庫を評価する点は同じで、違いは平均単価をいつ計算するかという一点しかありません。それでも、この記事で扱う数値例では、まったく同じ仕入と販売から期末棚卸高に15,000円の差が生まれます。計算するタイミングを変えただけで、帳簿に載る金額は動くということです。

暗号資産(仮想通貨)の損益計算にも、この2つの方法がそのまま登場します。ただし、商品在庫のように値動きの大きさを見て自由に選べるわけではありません。税務署へ届出をしなかった場合に自動で適用される方法が決まっており、しかも個人と法人で逆になります。個人の所得税では総平均法、法人の法人税では移動平均法が既定です。もう一方を使いたい場合は、いずれも税務署への届出が必要になります。

この記事では、損益計算書の構造から出発して、なぜ評価方法によって利益が変わるのか、総平均法と移動平均法をどう計算するのか、自分はどちらを選ぶべきかを順に解説します。決算や確定申告を迎える前に、自分がどちらの方法で計算しているのかを確かめるところから始めてみてください。

損益計算書とは何か

損益計算書は、一定の期間にどれだけの収益を上げ、そのためにどれだけの費用を使い、結果としていくらの利益が残ったのかを示す書類です。収益から費用を差し引けば利益が出る、という引き算そのものは単純です。

ただし損益計算書は、この引き算を一度で済ませません。収益と費用を性質ごとに区切り、利益を5つの段階に分けて示すという形をとっています。一番上に置かれるのは売上高で、そこから費用を種類ごとに、順番に差し引いていく構造です。

利益の名称

何を差し引いた利益か

売上総利益

売上高から売上原価を差し引いた利益。粗利とも呼ばれます。

営業利益

売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた利益。本業でどれだけ稼げたかを示します。

経常利益

営業利益に、受取利息や支払利息など本業以外の収益・費用を加減した利益。

税引前当期純利益

経常利益に、その期だけ生じた臨時的な損益を加減した利益。

当期純利益

税引前当期純利益から法人税等を差し引いた、最終的に手元へ残る利益。

この5つは独立した数字ではなく、上から順につながっています。売上総利益が動けば、その下にある営業利益も経常利益も、最後の当期純利益まで連動して動きます。損益計算書を読むということは、この一本の流れをたどる作業だといえます。

そして、その流れの出発点にあるのが売上総利益であり、これを決めているのが売上原価です。売上原価は帳簿から自動的に一つに決まる数字のように見えますが、実はそうではありません。

なぜ棚卸資産の評価方法によって利益が変わるのか

同じ商品を同じだけ仕入れ、同じだけ売った会社が2社あったとします。この2社の利益は、必ずしも同じ金額になりません。棚卸資産の評価方法が違えば、計上される利益の額も変わってしまうからです。

その理由は、売上原価の計算式を見ると分かります。

売上原価の計算式

  • 売上原価=期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高

仕入れた金額をそのまま費用にせず、わざわざ期末の在庫を差し引いているのは、売れ残っている商品はまだ費用ではないからです。費用として計上してよいのは、その期の売上に対応する分だけです。この考え方は費用収益対応の原則と呼ばれ、期末棚卸高を差し引く操作は、その原則を計算の形にしたものです。

ここで、式に並ぶ3つの項目を見比べてみます。期首棚卸高は前期から繰り越された確定値であり、当期仕入高も帳簿に記録された事実です。動く余地があるのは、残る期末棚卸高だけです。しかも期末の在庫数量は実地棚卸で確定するため、実際に金額を左右するのは在庫1つあたりの単価、つまり棚卸資産の評価方法ということになります。

あとは引き算のとおりです。評価方法によって期末棚卸高が大きく出れば、差し引かれる分が増えて売上原価は小さくなり、売上総利益は大きくなります。期末棚卸高が小さく出れば逆に振れます。前章で確認したとおり、売上総利益の変動は当期純利益まで一続きに伝わるため、評価方法の違いは損益計算書の最終行にまで届きます。

評価方法の選択が単なる事務手続きではなく、利益の額そのものを左右する判断だといわれるのは、この一連の因果関係があるためです。

総平均法と移動平均法の計算方法

棚卸資産の評価方法にはいくつかの種類がありますが、平均単価を使う方法として実務でよく登場するのが総平均法と移動平均法です。どちらも「仕入れたものの平均単価を求め、その単価で在庫を評価する」という発想は共通しており、まったく別の考え方に立っているわけではありません。

両者を分けているのは、その平均単価をいつ計算するかという一点だけです。そして、計算するタイミングがずれるだけで、まったく同じ仕入と同じ販売をしていても、期末棚卸高は別の金額になります。ここからは、共通の数値例を使いながら、それぞれの計算手順を順に見ていきます。

総平均法の計算方法

総平均法は、一定期間の仕入をまとめて1つの平均単価にする方法です。期中は単価を計算せず、期末に一度だけ、その期間の仕入をすべて合算して平均を出します。期首から期末までを1つのかたまりとして扱うため、同じ期の中であれば、いつ仕入れたものでも同じ単価で評価されます。

計算式は次のとおりです。分子に金額を、分母に数量を置き、期首の在庫と当期の仕入を合算するだけの形になっています(参照:棚卸資産の評価の方法(令第99条関係)|国税庁)。

総平均法の計算式

  • 平均単価=(期首棚卸高+当期仕入高)÷(期首棚卸数量+当期仕入数量)
  • 期末棚卸高=平均単価×期末棚卸数量

実際の数字で追いかけてみます。以下は計算手順を理解するために用意した仮の数値であり、特定の商品や相場を示したものではありません。

時期

取引

数量

単価

金額

期首

繰越在庫

100個

1,000円

100,000円

4月

仕入

200個

1,300円

260,000円

6月

販売

150個

9月

仕入

100個

1,600円

160,000円

期末

在庫

250個

総平均法では、期中の販売をいったん脇に置き、期首の在庫と当期の仕入だけを合算します。

総平均法での計算

  • 合計金額=100,000円+260,000円+160,000円=520,000円
  • 合計数量=100個+200個+100個=400個
  • 平均単価=520,000円÷400個=1,300円
  • 期末棚卸高=1,300円×250個=325,000円

このように、総平均法で求まる単価は期を通して1,300円ひとつだけです。計算そのものは期末の1回で完結しますが、裏を返せば、期末を迎えるまでは在庫がいくらで評価されるのかが確定しません。期の途中で正確な在庫評価額を知りたい場合には、この点が制約になります。

移動平均法の計算方法

移動平均法は、仕入のたびに平均単価を計算し直す方法です。新しく仕入れたものを手元の在庫に混ぜ込み、その時点での在庫金額と在庫数量から平均単価を更新します。仕入のたびに単価が更新されるため、期の途中でも常に最新の平均単価が分かる状態になります。

計算式は総平均法と対になる形です。合算する相手が「当期の仕入すべて」ではなく「直前の在庫」に置き換わります(参照:棚卸資産の評価の方法(令第99条関係)|国税庁)。

移動平均法の計算式

  • 平均単価=(直前の在庫金額+今回の仕入金額)÷(直前の在庫数量+今回の仕入数量)
  • 期末棚卸高=最後に更新した平均単価×期末棚卸数量

先ほどと同じ数値例を、今度は取引が起きた順にたどってみます。販売した分は、その時点の平均単価で在庫から差し引きます。

時点

在庫数量

在庫金額

平均単価

期首

100個

100,000円

1,000円

4月の仕入直後

300個

360,000円

1,200円

6月の販売後

150個

180,000円

1,200円

9月の仕入直後

250個

340,000円

1,360円

4月の仕入直後の単価は、期首の100,000円と仕入の260,000円を合わせた360,000円を、100個と200個を合わせた300個で割って1,200円になります。6月に150個を販売した際は、この1,200円で在庫から差し引くため、残った150個の在庫金額は180,000円です。9月の仕入で単価が更新され、180,000円と160,000円を合わせた340,000円を250個で割った1,360円が、期末の評価単価になります。

移動平均法での期末棚卸高

  • 期末棚卸高=1,360円×250個=340,000円

仕入も販売もまったく同じ内容でありながら、期末棚卸高は総平均法で325,000円、移動平均法で340,000円となり、15,000円の差が生まれました。平均単価をいつ計算するかというタイミングの違いだけで、帳簿に載る在庫の金額は動きます。

総平均法と移動平均法はどちらを選ぶべきか

2つの方法を前にすると、どちらが正しいのかと考えたくなります。しかし、会計上どちらかが正解というわけではありません。選ぶときに見るべきなのは、扱う資産の値動きが大きいかどうかという1つの軸です。

値動きが大きい資産では、期中の仕入をまとめて1つの単価にならすと、実際に取得した価格から離れた単価が出やすくなります。取得のたびに単価を更新する移動平均法のほうが、その時々の相場を在庫評価に反映しやすいのはこのためです。反対に、仕入単価が年間を通してあまり動かない一般的な商品在庫であれば、どちらの方法で計算しても結果に大きな開きは生じません。それなら、期末に一度計算するだけで済む総平均法のほうが、事務の手間を抑えられます。

この軸を、実際の状況に落とし込むと次のようになります。自社の状況に近い行を探してみてください。

あてはまる状況

向いている方法

理由

仕入単価が1年を通してほとんど動かない

総平均法

どちらで計算しても結果が近いため、計算回数の少ないほうが合理的。

仕入単価が短期間で大きく上下する

移動平均法

取得のたびに単価を更新するため、直近の相場が在庫評価に反映される。

期の途中でも在庫評価額や粗利を把握したい

移動平均法

取引のたびに単価が確定するため、期末を待たずに数字が読める。

取引件数が多く、事務負担を抑えたい

総平均法

期末に一度まとめて計算すればよく、日々の更新作業が発生しない。

なお、どちらが得かという発想で選ぶものではない点には注意してください。前章の数値例で生まれた15,000円の差は、その期にどれだけの利益を計上するかという配分の違いであり、在庫をすべて売り切ってしまえば、期をまたいだ累計では均されていきます。有利な方法を探すというより、自社の資産と体制に合った方法を選ぶ、という位置づけの判断です。

また、棚卸資産の評価方法は、その場の都合で自由に切り替えられるものではありません。届出をしなかった場合に適用される方法があらかじめ決まっており、それと異なる方法を採用したい場合にのみ、所轄の税務署への届出が必要になります。さらに、いったん採用した方法を後から変更するときは届出では足りず、税務署長の承認を受ける変更承認申請という別の手続きが必要です(参照:棚卸資産の評価方法の届出|国税庁)。判断に迷う場合や、自社が現在どの方法で届け出ているか分からない場合は、税務署や税理士へ確認しておくと安心です。

暗号資産(仮想通貨)の損益計算における評価方法

ここまで見てきた2つの方法は、暗号資産の損益計算にもそのまま登場します。ただし、商品在庫の場合と違い、値動きの大きさを見て自由に選ぶ、という形にはなっていません。

国税庁が公表している「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について|国税庁」では、評価方法の届出をしなかった場合に適用される方法が示されています。ここで注意したいのは、個人と法人で既定の方法が逆になるという点です。

個人が所得税で暗号資産の損益を計算する場合、届出をしていなければ総平均法が適用されます。移動平均法で計算したい場合は、所轄の税務署へ評価方法の届出を行う必要があります。法人が法人税で計算する場合はこれと逆で、届出をしていなければ移動平均法が適用されます。総平均法で計算したい場合に届出が必要になります。

前章の軸だけで考えると、値動きの大きい暗号資産には移動平均法が向いているように見えます。しかし実際にどちらで計算するかは、軸で決める話ではありません。個人か法人かという区分と、届出をしているかどうかで先に決まります。既定と違う方法をとりたい場合は、自分から届け出るという手順が必ず挟まります。

どちらの方法をとるにしても、計算の土台になるのは取引履歴です。取引した日時・数量・単価が残っていなければ、平均単価は求められません。特に移動平均法では取引のたびに単価を更新するため、記録の抜けが後の計算にそのまま響きます。取引所からダウンロードできる履歴は、早めに手元へ保存しておくとよいでしょう。

なお、ステーキング報酬のように取引所からの売買履歴だけでは残らない取得も、受け取った時点の時価が取得価額になるため、平均単価の計算に含める必要があります。>> 暗号資産のステーキング報酬に税金はかかる?確定申告の考え方を解説

評価方法の違いは、その年に計上する所得の額に影響します。自分の取引内容でどちらを選ぶべきか判断がつかない場合は、税務署や税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

>> 暗号資産は損益通算できない?損失が出たときの税金の考え方を解説

>> 損益通算と損失繰越の違いとは?暗号資産の税制を例に仕組みを解説

>> 暗号資産を紛失・盗難されたら税金は控除できる?ケース別の扱いと申告方法

まとめ

損益計算書は、収益から費用を差し引いた結果を、売上総利益から当期純利益まで5つの段階に分けて示す書類です。5つの利益は上から順につながっているため、起点にある売上総利益が動けば、最終行の当期純利益まで連動して動きます。

その売上総利益を決めているのが売上原価であり、売上原価は「期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高」で計算します。この式のうち実質的に動くのは期末棚卸高だけで、その金額を決めているのが棚卸資産の評価方法です。評価方法が利益を左右するといわれるのは、この経路をたどるためです。

代表的な評価方法である総平均法と移動平均法は、平均単価を使う点では共通しています。違うのは計算するタイミングだけで、総平均法は期末に一度だけまとめて、移動平均法は仕入のたびに単価を更新します。記事内の数値例では、まったく同じ仕入と販売でありながら、期末棚卸高に15,000円の差が生まれました。

どちらを選ぶかは、扱う資産の値動きが大きいかどうかで判断します。値動きが大きければ移動平均法のほうが実態を反映しやすく、値動きが小さければ計算回数の少ない総平均法で事務負担を抑えられます。ただし既定と異なる方法をとる場合は税務署への届出が必要で、後から変更するときは届出ではなく、税務署長の承認を受ける変更承認申請が必要になります。

暗号資産の損益計算では、届出をしない場合に適用される方法が個人と法人で逆になります。個人の所得税は総平均法、法人の法人税は移動平均法が既定であり、もう一方を使いたい場合はいずれも届出が必要です。値動きの大きさという観点だけで選べるわけではない点が、一般的な商品在庫との違いです。まずは取引履歴を正確に残したうえで、自分がどちらの方法で計算すべきか、判断に迷う場合は税務署や税理士へ確認しておきましょう。