投資に関する税金では「損益通算」や「損失繰越」という言葉がよく登場します。どちらも損失を税金計算に反映させる制度ですが、仕組みや使われ方は大きく異なります。特に暗号資産の税制では、この2つの制度の違いを理解しておくことが重要です。株式投資では利用できる制度でも、暗号資産では認められていないケースがあるためです。

この記事では、損益通算と損失繰越の違いを整理したうえで、暗号資産の税制を例にそれぞれの仕組みを分かりやすく解説します。株式投資との違いにも触れながら、暗号資産の税金の基本を理解できるようにまとめています。

損益通算と損失繰越の違い

損益通算および繰越控除は、いずれも投資によって生じた損失を税務上考慮し、税負担の軽減を図るための制度です。しかしながら、両者の制度設計における基本的な考え方には明確な違いがあります。最大の相違点は、当該損失を利益と相殺するタイミングにあります。

ここでは、損益通算と損失繰越の仕組みについて順番に見ていきましょう。

損益通算とは

損益通算とは、ある所得で発生した損失を、同じ年の他の所得の利益から差し引く仕組みです。所得税では、1年間に得た様々な所得をもとに税額を計算しますが、一定の所得については損失を他の所得と相殺することが認められています。

例えば、事業所得で赤字が出た場合、その損失を給与所得や不動産所得などの利益から差し引くことができます。このようにして所得金額を減らすことで、最終的な課税対象の金額も小さくなります。ただし、すべての所得が損益通算の対象になるわけではありません。税法では、損益通算の対象となる所得として主に次の4つが定められています。

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 譲渡所得
  • 山林所得

一方で、給与所得や雑所得などは、損失が出た場合でも他の所得と損益通算することはできません。暗号資産の利益は原則として雑所得に分類されるため、暗号資産取引で損失が発生しても、給与所得や事業所得などと相殺することはできない仕組みになっています。

このように、損益通算は税金計算において重要な制度ですが、どの所得で利用できるかは税法によって細かく定められています。

損失繰越とは

損失繰越とは、その年に発生した損失を翌年以降に持ち越し、将来の利益と相殺できる制度です。投資などでは、ある年に大きな損失が出たとしても、翌年以降に利益が出ることがあります。そのような場合に、過去の損失を税金計算に反映できる仕組みが損失繰越です。

例えば、ある年に100万円の損失が発生し、翌年に80万円の利益が出たとします。損失繰越が認められている場合は、前年の損失と相殺できるため、翌年の課税対象となる利益は0円になります。

ただし、損失繰越が利用できるかどうかは、所得の種類によって異なります。例えば、上場株式の譲渡損失などは一定の条件のもとで損失繰越が認められていますが、暗号資産の取引で生じた損失は、現在の税制では損失繰越を利用することができません。

暗号資産では損益通算ができない理由

取引で損失が出たときに給与所得などの他の所得と相殺する損益通算を、暗号資産では利用することができません。そのため、暗号資産で大きな損失が出た場合でも、その損失を給与所得などから差し引いて税金を減らすことはできない仕組みになっています。

例えば、給与所得が500万円あり、暗号資産取引で100万円の損失が発生した場合でも、その損失を給与所得から差し引けないため、給与所得500万円に対して通常どおり所得税が計算されます。

ただし、暗号資産取引のなかで発生した利益と損失については、同じ年の取引のなかでなら相殺して計算できます。例えば、ビットコインで利益が出たもののイーサリアムで損失が出た場合、それらを合算して年間の所得金額を算出できます。

このように、暗号資産の損失は他の所得と損益通算することはできませんが、暗号資産取引のなかでなら発生した損益をまとめて計算できます。

暗号資産の税制改正で検討されている「損失繰越」

現在の暗号資産の税制では、取引で生じた損失を翌年以降に持ち越す「損失繰越」も認められていません。そのため、ある年に大きな損失が発生した場合でも、その損失を翌年の利益と相殺することはできない仕組みになっています。

一方で、近年は暗号資産の税制について見直しの議論が進められています。政府・与党がまとめた税制改正大綱では、一定の条件のもとで暗号資産の課税方法を見直す方針が示されています。その内容の一つとして検討されているのが、損失の繰越制度です。報道などによると、将来的には暗号資産取引で生じた損失を3年間繰り越す仕組みを導入する案が示されています。

特定暗号資産を暗号資産取引業を行う者に対して譲渡等をしたことにより生じた損失の金額のうちに、その譲渡等をした日の属する年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額があるときは、一定の要件の下で、その控除しきれない金額についてその年の翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除を可能とする。

参照:令和8年度税制改正の大綱|財務省

この制度が実現した場合、ある年に発生した損失を翌年以降の利益と相殺できるようになります。現在の税制では利用できない仕組みであるため、暗号資産の投資環境にとって大きな変更となる可能性があります。ただし、これらの制度は、現時点だと検討段階の内容も含まれています。実際にどのような形で導入されるかは、今後の税制改正の動向を確認する必要があります。

まとめ

損益通算と損失繰越は、どちらも投資で発生した損失を税金計算に反映する制度ですが、仕組みには違いがあります。損益通算は同じ年の利益と損失を相殺する制度であり、損失繰越はその年に使いきれなかった損失を翌年以降に持ち越す仕組みです。

暗号資産の税制では、これらの制度の扱いが株式投資などとは異なります。現在の制度では、暗号資産の損失を給与所得など他の所得と損益通算することはできず、損失を翌年以降に繰り越すことも認められていません。

一方で、暗号資産の税制については見直しの議論も進められています。将来的に損失繰越などの制度が導入されれば、暗号資産の税制は大きく変わる可能性があります。暗号資産に投資する場合は、こうした制度の違いや今後の税制改正の動向を理解しておくことが重要です。