暗号資産(仮想通貨)に関するニュースを追っていると、「スマートコントラクト」という言葉を目にする機会が増えてきました。DeFiやNFTの解説には必ずと言っていいほど登場し、イーサリアムを語るうえでも欠かせない用語として扱われています。
ところが、この言葉が実際に何を指しているのかとなると、説明できる人は多くありません。ブロックチェーンと何が違うのか、なぜ暗号資産と結びつくのかと問われると、答えに詰まってしまう。名前だけが先に広まり、中身の理解が追いついていないのが実情です。
しかしスマートコントラクトは、暗号資産を保有しているなら、知らないうちに関わっている仕組みでもあります。取引所で買って持っているだけなら意識する場面は少ないかもしれませんが、ウォレットを何らかのサービスへ接続した時点で、自分の資産はその仕組みの上に置かれています。値動きを追いかける前に、裏側で何が動いているのかを押さえておくと、資産の守り方まで含めて見え方が変わってくるはずです。ここで取り上げるのは、どの銘柄が値上がりするかといった投資の判断ではなく、仕組みそのものの理解です。
スマートコントラクトとは何か
スマートコントラクトとは、あらかじめ決められた条件が満たされたときに、人の手を介さず契約の内容が自動的に実行される仕組みのことです。「スマート(賢い)」と「コントラクト(契約)」という名前が示すとおり、契約の取り決めをプログラムとして書いておき、その内容どおりに動かす技術を指します。
とはいえ、この一文だけでは「結局どうやって自動で動くのか」という肝心な部分までは見えてきません。加えて、スマートコントラクトはブロックチェーンという言葉とほぼセットで語られるため、両者が同じものを指しているのか、それとも別々のものなのかが分からないまま読み進めてしまうことも少なくありません。
そこでここでは、条件が満たされたときに実際に何が起きているのかという動作の流れを押さえたうえで、混同されやすいブロックチェーンとの関係を整理していきます。この2つを順に確認しておくと、この後に見ていく暗号資産での使われ方も理解しやすくなります。
条件が満たされると自動的に実行される仕組み
スマートコントラクトの動き方は、「もしAという条件が満たされたら、Bを実行する」という一本の決まりごとで説明できます。身近なものでは自動販売機の動作が近いかもしれません。決められた金額を投入してボタンを押すという条件さえ満たせば、店員が確認しなくても商品が出てきます。売り手と買い手のあいだのやり取りが、あらかじめ機械に組み込まれた手順どおりに完了するわけです。
スマートコントラクトは、この「条件と実行内容の組み合わせ」をプログラムとして記述し、ブロックチェーン上に記録したものです。自動販売機との大きな違いは、その手順書が特定の誰かの手元ではなく、ネットワークに参加する多数のコンピューターへ同じ内容で共有されている点にあります。そのため、一度記録された内容を後から一方的に書き換えることは極めて難しく、当事者の一方が自分に都合よく条件を変えるといったことが起こりにくい構造になっています。
条件を満たしたかどうかの判定も、その後の実行も、プログラム自身が担います。従来の契約では、銀行が入金を確認する、不動産業者が書類を突き合わせるといった形で、当事者以外の第三者が「約束どおりに履行されたか」を確かめる役割を引き受けてきました。スマートコントラクトでは、この確認と実行の工程があらかじめコードに織り込まれているため、仲介者を挟まずに契約が成立し、そのまま完了します。
仲介者を必要としないという発想が成り立つのは、記録されたプログラムの内容と実行の履歴を、誰でも同じように確認できるからです。取り決めの中身が一方の当事者にしか見えない状態であれば、最終的には相手を信用するしかありません。一方、ブロックチェーン上では処理の履歴が公開された形で残るため、相手の人柄や企業の看板ではなく、公開されたプログラムそのものを判断の材料にできます。スマートコントラクトの説明で透明性や信頼性という言葉がしばしば登場するのは、この点を指しています。
ブロックチェーンとスマートコントラクトの違いは何ですか?
この2つは常に並べて語られるため、同じ技術の言い換えだと受け取ってしまっても無理はありません。どちらも取引や契約という同じ文脈で登場しますし、日本語の解説でも明確に線引きされないまま使われていることがあります。
結論から言えば、両者は競合する別々の技術ではなく、役割が上下に分かれた関係にあります。ブロックチェーンは、取引の記録を改ざんされにくい形で残していく「土台」です。これに対してスマートコントラクトは、その土台の上で動く「プログラム」にあたります。記録を保つ側と、その記録を使って処理をおこなう側という分担だと考えると、整理しやすくなるはずです。
身近なたとえで言えば、スマートフォンとアプリの関係に近いものがあります。スマートフォン本体は、データを保存し、アプリを動かすための基盤です。その上にどんなアプリを入れるかによって、できることは大きく変わります。ブロックチェーンという基盤があり、その上で動くスマートコントラクトが具体的な処理を担うという構図も、これと同じです。
暗号資産とスマートコントラクトの関係
スマートコントラクトは、研究段階の技術用語でも、将来こうなるかもしれないという構想でもありません。暗号資産の世界では、すでに日々動いている実物です。取引所で暗号資産を買って保有するだけであれば意識する場面は少ないかもしれませんが、DeFiやNFTといった話題でこの言葉が必ず登場するのは、それらのサービスがスマートコントラクトによって成り立っているからです。
ただし、暗号資産と一口に言っても、そのすべてが同じようにスマートコントラクトを動かせるわけではありません。この仕組みを備えたブロックチェーンと、そうでないブロックチェーンがあり、どの暗号資産がどちらに当たるのかは、外から見ているだけでは分かりにくい部分です。
ここでは、スマートコントラクトを動かす代表的な基盤がどれなのかという点と、その基盤の上で実際にどんなサービスが動いているのかという点を、順番に見ていきます。
暗号資産のスマートコントラクトとは?イーサリアムが代表的な実装基盤
暗号資産におけるスマートコントラクトとは、暗号資産を動かすブロックチェーンの上に書き込まれ、資産のやり取りを自動的に処理するプログラムのことです。誰かが送金ボタンを押して指示を出すのではなく、あらかじめ定めた条件が満たされた時点で、送金や交換といった処理がそのまま実行されます。前の章で見た「もしAならBを実行する」という仕組みが、お金の動きに直接適用されていると考えると分かりやすいはずです。
そして、この機能を備えた代表的なブロックチェーンがイーサリアムです。ブロックチェーンには、資産の送受信を記録することに用途を絞って設計されたものと、その上に自由にプログラムを書き込めるよう設計されたものがあります。イーサリアムは後者にあたり、開発者が作成したプログラムを誰でもネットワーク上に配置し、動かせる仕組みを最初から備えています。スマートコントラクトの解説でイーサリアムの名前が繰り返し出てくるのは、この設計思想によるものです。
イーサリアム上で発行されるトークンには、ERCと呼ばれる共通規格が定められています。トークンをどう発行し、どう移転し、残高をどう扱うかといった基本的な手順があらかじめ決められているため、規格に沿って作られたトークンであれば、ウォレットや各種サービスが同じ扱い方で対応できます。通貨のように使われるトークンと、一点ものとして扱われるトークンとでは別の規格が用意されており、用途に応じて使い分けられています。
こうした背景から、独自のブロックチェーンを一から用意するのではなく、イーサリアムのスマートコントラクト機能の上でトークンを発行するという形は、代表的な例として数多く見られます。プログラムを書く側の技術的な手順まで知る必要はありませんが、自分が保有しているトークンがどのブロックチェーンを土台にして動いているのかは、押さえておく価値のある情報です。
DeFi・NFTを支える仕組みとしての活用
当社が暗号資産の基礎用語について実施した調査(有効回答1,314名)では、「最も理解できていない用語」としてDeFiを挙げた人が23.2%と最も多い結果になりました。投資経験のある人に限っても、DeFiを「人に説明できる」と答えた層は9.7%にとどまっています。暗号資産に関わる基礎用語のなかでも、DeFiは特に中身を掴みにくい言葉として受け止められているといえます。
DeFiは、日本語では分散型金融と訳される言葉で、銀行や取引所のような運営者を挟まずに成立する金融サービスを指します。本来であれば、資産を預かり、条件を確認し、返済や交換を処理するのは事業者の役割です。DeFiでは、その一連の条件と手続きがスマートコントラクトとして書き込まれており、条件が満たされればプログラムが自動的に処理を実行します。前の章で説明した仲介者を挟まない仕組みが、そのまま金融サービスの形になったものだと考えると理解しやすくなります。
NFTも同じ土台の上にあります。デジタル作品などに固有の識別情報を持たせて発行する処理も、誰が現在の所有者なのかという記録も、売買にともなう所有権の移転も、スマートコントラクトが担っています。作品が転売されたときに、あらかじめ決められた割合が制作者へ渡るよう設計できるのも、その条件がプログラムとして書き込まれているためです。
DeFiとNFTは、それぞれ別のトレンドとして語られることが多い言葉です。しかし、どちらも支えている技術は同じスマートコントラクトであり、新しい名前が登場するたびに一から覚え直す必要はありません。仕組みの側から捉えておけば、この先に出てくるサービスも同じ枠組みで理解できるようになります。
スマートコントラクトのメリットと知っておくべきリスク
仲介者を挟まずに契約が自動で実行されるという性質は、これまでの取引のあり方を大きく変えるものです。手続きにかかっていた手間や費用が減り、当事者同士が直接やり取りできる場面が増えます。実際、スマートコントラクトが注目を集めてきた理由の多くは、この点に集約されます。
一方で、人の判断を挟まずにプログラムが動くということは、そのプログラムが正しく書かれていることが前提になるという意味でもあります。書かれた内容がそのまま実行される仕組みである以上、想定外の事態が起きたときに誰かが止めてくれるとは限りません。便利さを支えている性質と、注意すべき性質は、実のところ同じ一つの特徴から生まれています。
ここでは、仲介者を介さないことで何が得られるのかを整理したうえで、その裏側にある注意点を、実際に起きた出来事を交えて見ていきます。
仲介者を介さないことで生まれるメリット
スマートコントラクトの利点は、大きく3つに整理できます。コストの削減、処理の高速化、そして取引の透明性です。いずれも別々の長所というよりは、仲介者を介さずに自動で実行されるという一つの仕組みから派生したものだと捉えると、全体像を掴みやすくなります。
コストの削減は、最も分かりやすい効果です。従来の契約では、銀行が入金の確認をおこない、不動産業者が書類を突き合わせ、それぞれが手数料を受け取ってきました。第三者が間に入るということは、その働きに対する対価が発生するということでもあります。スマートコントラクトでは、確認と実行の工程があらかじめプログラムに組み込まれているため、この中間コストを圧縮できます。
処理の高速化も、同じ理由から生まれます。人が書類を確認して承認するという工程がある限り、担当者の稼働時間や営業日の制約からは逃れられません。条件の判定をプログラムが担う場合、夜間でも休日でも、条件が満たされた時点でそのまま処理が進みます。数日かかっていた手続きが即時に完了するケースがあるのは、待ち時間の正体が人の作業だったためです。
そして透明性は、前の章で触れたとおり、契約内容と実行履歴が公開された形で残ることによるものです。取り決めの中身を確認できるのが一方の当事者だけであれば、相手の言い分を信じるしかありません。誰でも同じ内容を確認できる状態であれば、相手の規模や知名度ではなく、公開されたプログラムそのものを判断の材料にできます。
知っておくべきリスクと過去の被害事例
スマートコントラクトの解説では、「脆弱性を突かれる可能性がある」という一文で説明が終わることが少なくありません。しかし、この仕組みに関わるうえで本当に知っておきたいのは、それが実際に起きた出来事だという点です。2016年、イーサリアム上で運営されていた「The DAO」という名称のプロジェクトが、契約プログラムの欠陥を突かれ、集まっていた資金を何者かによって外部へ流出させられる事態が発生しました。暗号資産の歴史のなかでも、スマートコントラクトの安全性が広く問われるきっかけになった出来事です。
このとき突かれたのは、「再入可能性(reentrancy)」と呼ばれる種類の欠陥でした。本来であれば一度だけ実行されるはずの処理が、残高を差し引く前に繰り返し呼び出されてしまう書き方になっていたために、同じ引き出しが何度も成立してしまうというものです。誰かが不正にネットワークへ侵入したわけでも、暗号技術そのものが破られたわけでもありません。公開されたプログラムが、書かれたとおりに忠実に動いた結果として起きています。
ここに、スマートコントラクトの難しさが表れています。一度記録された内容を書き換えにくいという性質は、当事者が勝手に条件を変えられないという安心につながる一方で、欠陥が見つかったときに手早く修正することも難しくするからです。人の判断を挟まない仕組みである以上、「おかしいので一旦止める」という対応が常に取れるとは限りません。プログラムの品質が、そのまま資産の安全性に直結する構造になっています。
では、利用する側にできることは何もないのかというと、そうではありません。現実的な対策として押さえておきたいのが、ウォレットの「承認(アプルーブ)」の見直しです。DeFiやNFTのサービスを使うとき、私たちは自分のウォレットに対して、トークンを動かす権限をスマートコントラクトへ与えています。この権限は、その場限りのものではなく、意識して取り消さない限り残り続けることがあります。与えた権限を後から取り消す操作は「リボーク」と呼ばれ、使い終わったサービスや、信頼性がはっきりしないサービスに与えた権限を整理する手段になります。
ただし、この対策が広く実行されているとは言い難い状況です。当社がウォレットの運用実態について実施した調査(有効回答746名)では、リボークについて「知らない」と答えた人が30.4%、「聞いたことはある」にとどまる人が30.7%で、合わせて61.1%が実質的に未対策の状態でした。定期的に実施していると答えた人は12.7%にすぎません。普段使っている環境による差もあり、取引所のみを利用している層では「知らない」が37.4%に達する一方、ハードウェアウォレットを利用している層では14.4%にとどまっています。
もう一点、同じ調査対象に対しておこなったハッキング被害の調査では、解釈に注意が必要な結果も出ています。全体では40.9%が被害の経験を挙げているのに対し、リボークを「知っていて定期的に実施している」層では、被害経験率が65.3%と高く出ているのです。対策をしているほど被害に遭っているように読めますが、順序は逆である可能性が高いといえます。実際に被害や危険な場面を経験したからこそ、対策に踏み切った人が多いと考えるのが自然です。裏を返せば、被害に遭って初めてリボークの存在を知るという人が少なくない可能性があります。仕組みを理解している今のうちに、自分のウォレットがどのサービスへ権限を与えているかを一度確認しておく価値は十分にあります。
暗号資産以外での活用事例(金融・保険・不動産)
ここまで暗号資産を中心に見てきましたが、スマートコントラクトの応用範囲はその外側にも広がっています。契約の条件をあらかじめ決めておき、条件が満たされたら自動的に履行するという発想は、暗号資産に固有のものではないからです。書類のやり取りと人手の確認に時間がかかっている業務であれば、業種を問わず置き換えの対象になり得ます。
分かりやすい例が保険です。保険金の支払いは、事故や災害の発生を確認し、申請書類を審査し、支払いを実行するという工程を踏みます。ここで、支払いの条件を客観的なデータで判定できる形に整えておけば、条件を満たした時点で自動的に支払いを実行するという設計が可能になります。契約者が申請を忘れていても支払いが漏れないという点も、従来の運用との違いです。
不動産の分野では、契約手続きの自動化が検討されています。売買や賃貸の契約には、代金の入金確認、権利の移転、鍵の引き渡しといった複数の工程があり、それぞれで当事者や仲介業者の確認が入ります。入金が確認された時点で次の工程へ進むという流れをプログラムに落とし込めば、手続きにかかる期間の短縮につながります。
貿易取引も相性の良い分野とされています。国をまたぐ取引では、商品の出荷、輸送状況の確認、代金の決済が別々の当事者によって管理され、書類のやり取りだけで長い時間を要することがあります。荷物が指定の場所へ到着したという記録をもとに決済を実行する仕組みがあれば、この待ち時間を圧縮できます。
ただし、これらの多くはまだ実証実験や一部業務への導入という段階にあり、すべての契約が置き換わっているわけではありません。それでも、暗号資産の文脈だけで語られる技術ではないという点は、押さえておく価値があります。
まとめ
スマートコントラクトは、あらかじめ決めた条件が満たされたときに、人の手を介さず契約の内容が自動的に実行される仕組みです。ブロックチェーンと同じものではなく、取引の記録を残す土台がブロックチェーン、その上で動くプログラムがスマートコントラクトという役割の違いがあります。スマートフォンとアプリの関係に近いと考えると整理しやすいはずです。
暗号資産の世界では、この仕組みを備えた代表的な基盤がイーサリアムです。多くのトークンがイーサリアム上で発行され、DeFiの自動的な取引も、NFTの発行や所有者の記録も、その裏側ではスマートコントラクトが処理を担っています。新しいサービス名が次々と登場しても、支えている技術をたどれば同じ仕組みに行き着きます。
そして、この仕組みの利点と注意点は表裏一体の関係にあります。仲介者を挟まずに自動で実行されるからこそ、コストが下がり、処理が速くなり、取引の内容を誰でも確認できます。同時に、書かれたプログラムがそのまま動くため、その欠陥が資産の損失に直結する可能性もあります。実際に、契約プログラムの欠陥を突かれて資金が流出した事例が過去に起きています。
利用する側にできる対策として、ウォレットの承認状況を一度確認しておくことをおすすめします。過去に接続したサービスへ与えたままになっている権限が残っていないか、使わなくなったものは取り消せる状態か。仕組みを理解した今のタイミングが、見直しに取りかかりやすい時期です。
なお、スマートコントラクトの応用は暗号資産の外にも広がっており、保険金の支払いや不動産の契約手続き、貿易取引の決済といった分野でも活用が検討されています。暗号資産に関心があるかどうかにかかわらず、契約のあり方を変えていく技術として、名前と仕組みを押さえておく意味のある存在だといえます。

.png%3Fw%3D640%26h%3D360%26fm%3Dwebp&w=3840&q=75&dpl=dpl_5H9aPpHcFooS4SodSWUghJ5Na7Rn)
.png%3Fw%3D640%26h%3D360%26fm%3Dwebp&w=3840&q=75&dpl=dpl_5H9aPpHcFooS4SodSWUghJ5Na7Rn)
.png%3Fw%3D640%26h%3D360%26fm%3Dwebp&w=3840&q=75&dpl=dpl_5H9aPpHcFooS4SodSWUghJ5Na7Rn)