暗号資産の利益がまとまってくると、法人化したほうが節税になると言われることがあります。税率だけを並べれば、その説明が成り立つ場面もあります。ただし法人には、個人にはない負担が1つ加わります。売っていない暗号資産の含み益に、事業年度の末日時点で税金がかかることです。決算日に相場が高ければ、手元に入っていない利益の分まで現金で納めることになり、その後に相場が下がっても税額は決算日の時価のままです。

法人化の判断は、税率の高い低いだけでは決まりません。どちらが軽いかは利益の規模で入れ替わり、他に所得があるかどうかでも動きます。自分がその境目のどちら側にいるのか、税金の仕組みの違いから順に見ていきます。

法人の暗号資産取引にかかる税金の全体像

暗号資産の取引で得た利益は、個人と法人のどちらで保有しているかによって、適用される税金の種類そのものが変わります。

個人の場合、暗号資産の売却益や決済益は原則として雑所得に区分され、給与所得や事業所得と合算した総合課税の対象になります。税率は所得税が5%〜45%の累進税率で、これに住民税10%が加わります。利益が大きくなるほど税率が上がる仕組みです。

法人の場合は、暗号資産の利益も他の売上と同じ「法人の所得」として一本にまとめられ、法人税・地方法人税・法人事業税・特別法人事業税・法人住民税がかかります。法人税の本則税率は23.2%ですが、資本金1億円以下の中小法人には年800万円以下の所得に15%の軽減税率が適用されます。ただしこれは恒久的な税率ではなく、令和9年3月31日までに開始する事業年度に限られた時限措置です。所得が年10億円を超える事業年度は17%になる例外もあります。

これらを合計した実質的な負担率は、所得の規模や事業所の所在地によって20%台から30%台の範囲で動きます。「法人は一律で約35%」という説明を見かけますが、中小法人の実態とは合いません。

個人は累進、法人はほぼ一定です。この税率構造の違いが、以降の話の土台になります。

個人と法人の税負担を徹底比較|利益規模別シミュレーション

税率の一覧を眺めても、自分の場合にどちらが得なのかは見えてきません。そこで、暗号資産の利益額を4段階に分け、個人と法人の税負担を概算で並べます。

前提は、東京都23区に本店を置く資本金1,000万円以下の中小法人、暗号資産以外の所得はなし、控除は基礎控除等のみ、代表者への役員報酬は支払わない、というものです。個人側の基礎控除は令和7年分・令和8年分の水準で計算しており、この特例が終わる令和9年分以降は数字が変わります。税率は国税庁の税率表東京都主税局の税率表によります。所得が年2,500万円を超える3,000万円の行だけは、東京都の法人事業税の超過税率で計算しています。前提が変われば金額も変わるため、あくまで位置を確かめるための目安として見てください。

年間の利益額

個人の税負担

法人の税負担

軽い側

100万円

約6万円(約6%)

約29万円(約29%)

個人

500万円

約91万円(約18%)

約121万円(約24%)

個人

1,000万円

約256万円(約26%)

約270万円(約27%)

個人

3,000万円

約1,240万円(約41%)

約1,019万円(約34%)

法人

まず目を引くのは、利益が小さいうちは個人のほうが軽いという点です。個人には基礎控除があり、所得が少なければ低い税率区分に収まります。一方の法人は、赤字であっても法人住民税の均等割が必ず発生します。東京都主税局の税率表によれば、23区内に事務所を置く資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人で年7万円です。利益が小さいほど、この固定費の重みが増します。

利益1,000万円の時点では、まだ個人のほうがわずかに軽い状態です。個人側の課税所得が900万円を超えて税率区分が1つ上がると、そこから先は個人の増え方が法人を上回るようになり、利益1,200万円前後で両者の負担が入れ替わります。ここを越えると、法人側はほぼ一定のまま伸びるため、利益が増えるほど差が開きます。3,000万円では、その差が約220万円に達します。

ただし、これは暗号資産の利益しかない場合の数字です。給与所得や事業所得が別にあると、暗号資産の利益はその上に積み上がるため、個人側の税率はより早く上の段に到達します。会社員として一定の給与を得ている方なら、分岐点は1,200万円より手前に来ます。判断するときは、自分の他の所得と合わせた課税所得で見てください。

含み益・期末評価課税の実務

法人と個人の差がもっとも大きく出るのがここです。法人は事業年度末に保有している暗号資産を時価で評価し、帳簿価額との差額を利益または損失として計上します。売っていない、つまり現金化していない含み益にも課税されるということです。個人にはこの仕組みがありません。

期末評価課税の対象となる暗号資産の条件

時価評価の対象になるのは、原則として活発な市場が存在する暗号資産です。国税庁が示す法人税法上の条件は、売買価格などが継続的に公表されていること、その公表価格が実際の売買価格や交換比率の決定に重要な影響を与えていること、価格を公表できるだけの数量と頻度で取引が行われていることの3点です。国内の暗号資産交換業者で日常的に売買されている主要な銘柄は、これに当てはまると考えて差し支えありません。活発な市場が存在しない暗号資産は原価法で評価し、取得したときの価額のまま据え置きます。

加えて、次の2つは市場があっても例外的に時価評価の対象から外れます。

類型

内容

対象外とした改正

特定自己発行暗号資産

自社が発行し、発行時から継続して保有しているもの

令和5年度税制改正

特定譲渡制限付暗号資産

他社が発行したもので、譲渡の制限などの条件を満たすもの

令和6年度税制改正

評価方法を原価法から時価法へ変更する場合は、所轄税務署長へ変更承認申請を行い、承認を受ける必要があります。最初に評価方法を選ぶときの届出書とは別の、承認を伴う重い手続きです。選択の余地があるのは上の表のような限られた類型で、通常の市場性のある暗号資産は時価法が原則になります。

決算書・申告書への反映の流れ

実務は4段階で進みます。

  1. 決算日時点の時価を確定させます。参照する価格の出所はあらかじめ決めておき、期をまたいで同じ基準を使います。
  2. 銘柄ごとに時価と保有数量を掛けて評価額を求め、帳簿価額との差額を評価損益として計上します。
  3. 評価益が出ていれば課税所得に加算され、法人税額に反映されます。
  4. 翌期首に前期の評価損益を戻し入れ、帳簿価額を元に戻します。

注意すべきは納税資金です。評価益にかかる税金は現金で納めますが、含み益のままでは手元に現金は入っていません。決算日の直前に相場が急騰し、申告期限までに急落したとしても、納める税額は決算日の時価で決まります。決算月の相場は必ず確認し、必要であれば一部を売却して納税資金を用意しておくことが求められます。

損益通算と繰越控除|法人だけが使える節税制度

損益通算とは、ある所得の損失を別の所得の利益から差し引くことです。繰越控除は、その年に引き切れなかった損失を翌年以降に持ち越して差し引くことをいいます。この2つの扱いが、個人と法人で大きく違います。

法人は、暗号資産で出た損失を他の事業の利益と相殺できます。本業で利益が出ていれば、暗号資産の損失はその利益を減らし、結果として法人税を押し下げます。相殺しきれずに残った赤字は欠損金と呼ばれ、原則10年間繰り越して翌期以降の利益から控除できます。

ただし青色申告書を提出していることが要件で、白色申告では繰り越せません。控除できる額は、中小法人なら所得の全額、資本金1億円超の法人は所得の50%までに制限されます。

対して個人の雑所得は、給与所得や事業所得と損益通算できません。暗号資産で損失が出ても他の所得の税金は減らず、翌年に持ち越すこともできないため、その損失はそこで消えます。年ごとに利益と損失を繰り返す取引をしている場合、この差は決定的です。

マイニング・ステーキング・エアドロップの税務上の扱い

暗号資産は、買う以外の経路でも手に入ります。マイニングやステーキングの報酬、エアドロップによる無償配布です。いずれも受け取った時点で課税関係が生じます。

取得時点の時価評価方法

原則は、報酬を受け取った時点の時価で収益に計上することです。同時に、その金額がその暗号資産の取得価額になります。

必要なのは記録の設計です。「受け取り日時・銘柄・数量・その時点の単価・円換算後の金額・参照した価格の出所」を1行として残しておけば、決算のときに履歴を組み直す手間がなくなります。少額の受け取りが毎日発生する場合は、記録を自動化する仕組みを先に作るほうが確実です。

エアドロップは扱いが分かれます。配布時点で時価を算定できない銘柄もあり、その場合は受け取り時に収益計上する原則があてはまりません。判断に迷うときは税理士に確認してください。

なお、マイニングは電気代・機器の減価償却費・場所代を損金に算入できます。法人で行うなら、この経費計上の幅が実利につながります。

通常の売買との扱いの違い

違いは取得価額の決まり方にあります。売買なら支払った対価が取得価額ですが、報酬は対価を払っていないため、受け取り時の時価を取得価額とみなします。

取得の経路

取得価額

課税されるタイミング

売買

支払った対価

売却・交換したとき

マイニング・ステーキングの報酬

受け取り時の時価

受け取り時と、売却・交換したとき

報酬はこのように課税の機会が2回に分かれますが、受け取り時に計上した金額の分が売却時に二重で課税されるわけではありません。

同じ銘柄を売買と報酬の両方で持つ場合、取得価額は法人が選択した算出方法(移動平均法または総平均法)で一体として計算します。届出をしなければ移動平均法が法定の算出方法になり、総平均法を使うには所轄税務署長への届出が必要です。

暗号資産取引の法人化を判断する基準とタイミング

ここまでの内容を、判断に使える形に整えます。

法人化の検討目安となる利益規模

出発点は先の比較表です。暗号資産の利益しかない場合、分岐点は年間1,200万円前後にあります。利益1,000万円の時点ではまだ個人のほうが軽く、そこを超えたあたりで法人が有利に転じます。

ただし、この数字をそのまま当てはめられるのは他に所得がない人だけです。給与や事業の所得が別にあれば、暗号資産の利益はその上に乗るため、より低い利益でも高い税率区分に入り、分岐点は前倒しになります。

もう1つの条件は継続性です。法人には設立費用がかかり、赤字でも均等割が毎年発生し、記帳と決算の手間から税理士報酬も生じます。やめるときにも解散と清算の費用がかかります。単年だけ相場に恵まれた利益で法人を作ると、翌年以降はこの固定費だけが残ります。来年以降も同じ規模の利益を狙って取引を続けるのかという見通しは、単年の税額差より重い判断材料です。

法人化のメリットとデメリット

論点

法人

個人

税率の伸び方

所得が増えてもほぼ一定

累進で上がり、最大約55%

損失の扱い

他の事業と相殺し、欠損金は原則10年繰越

他の所得と通算できず、繰越もできない

期末の含み益

時価評価され課税される

売却するまで課税されない

経費の範囲

事業に必要な支出を広く損金にできる

雑所得の必要経費に限られる

社会保険

代表者に報酬を支払う場合は加入が必要

暗号資産の利益では新たに生じない

固定費と事務負担

赤字でも均等割が発生し、決算業務が必要

確定申告のみ

法人化は税負担だけの問題ではありません。期末の時価評価課税は、個人であれば存在しないリスクを新たに引き受けることを意味します。社会保険料も、代表者に役員報酬を支払う場合に生じる負担です(無報酬であれば発生しません)。税額の差だけを見て決めると、こうした負担を後から抱えることになります。

法人化後の出口戦略|赤字時の扱いと解散手続き

法人化は一度決めたら戻れない選択ではありません。赤字の年と、事業をやめるときの扱いを先に知っておくと、判断の重さが変わります。

赤字が出た場合の扱いと繰越控除

相場が下落した年は、売却損だけでなく期末の評価損も出ます。法人ではこれが欠損金になり、青色申告書を提出していれば原則10年間繰り越して、その後の利益から控除できます。期末の時価評価は含み益に課税する仕組みですが、含み損を先に使えるという裏返しの効果も持っています。

注意点は2つあります。1つは、赤字でも法人住民税の均等割は納めることです。もう1つは、青色申告の承認を先に取っておくことです。新設法人は、設立から3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のうち早い日の前日までに承認申請書を提出する必要があり、これを逃すと初年度の赤字を繰り越せません。

事業をやめる場合の解散・清算の流れ

手続きは、株主総会での解散決議、清算人の選任と登記、債権者への公告、残余財産の確定、株主への分配という順で進みます。

税務上は、清算中も各事業年度の所得に対する法人税を申告し、残余財産確定日を含む事業年度で最終の申告を行います。かつて存在した清算所得課税は2010年10月1日以後の解散について廃止されており、現在は通常の事業年度と同じ考え方で申告します。

暗号資産固有の注意点は、法人に残った暗号資産の処理です。売却して現金で分配すれば、その時点で損益が確定します。株主が個人の場合は、現物のまま渡すときも時価で評価して損益を計算します(株主が100%グループ内の内国法人であれば適格現物分配となり、帳簿価額のまま引き継ぐ例外があります)。含み益を抱えたまま解散すれば課税を免れる、ということはありません。

暗号資産の法人税務に強い税理士の選び方

暗号資産の法人税務は、税理士であれば誰でも同じように扱える分野ではありません。複数の取引所とウォレットをまたぐ損益計算、期末の時価評価、報酬の収益計上といった、一般の事業会社の決算には出てこない作業が入ります。

問い合わせの段階で次の4点を聞くと、対応実績を確かめられます。

  1. 暗号資産を保有する法人の申告を、期末の時価評価を含めて何件手がけたか。
  2. 複数の取引所やウォレットの取引履歴を集計するとき、どのツールを使っているか
  3. ステーキング報酬やDeFiの取引について、どの方針で処理しているか。
  4. 月々の顧問料に、暗号資産の損益集計の作業がどこまで含まれるか。

最後の1点は特に重要です。集計を自社で行うのか税理士が行うのかで、実質的な費用が大きく変わるためです。

まとめ

法人と個人では、税率の仕組みそのものが違います。個人は累進で最大約55%、法人はほぼ一定で20%台から30%台です。暗号資産の利益しかない場合、負担が入れ替わるのは1,200万円前後で、他に所得があればその手前に来ます。

一方、法人には期末の時価評価課税という個人にない負担があり、赤字でも均等割と事務負担が残ります。損益通算と10年の繰越控除は、これと引き換えに得られる利点です。

まずは自分の課税所得で比較表のどこに位置するかを確かめ、来年以降も同じ規模の利益が続く見込みかを考えてください。検討する段階だと判断できたら、暗号資産の実務経験がある税理士に相談するのが次の一歩です。