海外の暗号資産取引所は、国内にない銘柄の豊富さや高いレバレッジを理由に、多くの日本人トレーダーの関心を集めています。一方で「海外取引所はおすすめしない」「やめとけ」という声も根強く、実際に何が問題なのかは意外と知られていません。
海外取引所には、確かに国内にはない魅力があります。出金停止や取引所の破綻といったトラブルは国内外を問わず起こりえますが、海外取引所の場合、いざというときに日本の投資家保護制度や日本語でのサポートが受けにくいという違いがあります。さらに、取引履歴の管理や確定申告など、海外ならではの負担も加わります。こうしたメリットとリスクが本当に自分に関係するかは、人によって大きく異なります。
この記事では、海外取引所を使う理由とメリットを整理したうえで、あなた自身に必要かどうかを診断し、実際に起きているトラブルと税金の実務、規制の現状までご紹介します。
日本人が海外取引所を使う理由とメリット
海外の暗号資産取引所には、国内の取引所にはない機能や条件がいくつもあります。だからこそ一定数の日本人が海外の取引所を選んでおり、その選択には無視できない合理性があります。「危ないからやめておく」と切り捨ててしまう前に、まずは海外取引所が選ばれている理由を正直に知っておくことが、あなたにとって必要かどうかを落ち着いて判断する土台になります。
海外取引所の主なメリットは、大きく分けて4つあります。
- 扱える銘柄の数
- レバレッジの倍率
- デリバティブ商品の豊富さ
- 手数料やツールの環境
なお、各取引所の倍率や銘柄数、日本に住んでいる人が使えるかどうかといった条件は、変わりやすい部分です。数値はあくまで目安としてとらえ、実際に検討する際は最新の公式情報を確認するようにしてください。
取扱銘柄の多さ
海外取引所が選ばれる一番の理由は、扱っている銘柄の幅広さです。国内の取引所が扱う銘柄はおおむね数十種ほどで、最も多いところでも60種前後というのが今のところ(2026年7月時点)の状況です。これは金融庁への登録の過程で、取り扱う暗号資産が一定の審査を通っていることも関係しています。
これに対して海外の主要な取引所では、数百種、多いところでは1,000種を超える銘柄を扱っています。国内ではまだ扱われていない新しいアルトコインや、話題になり始めたばかりのトークンをいち早く売買できる点が、海外に目を向ける人にとって最も分かりやすい魅力になっています。
ただ、これは審査がゆるやかであることの裏返しでもあり、価値が低い暗号資産が入り混じっている状況でもあります。選択肢が多いこと自体は魅力ですが、その一つひとつが自分にとって本当に必要な銘柄なのかは、また別の話です。豊富さをメリットとして活かせるかどうかは、使う人の目的次第だといえます。
高いレバレッジ
証拠金を担保にして、手元の資金より大きな金額を動かせるレバレッジ取引も、海外が選ばれる理由のひとつです。日本国内では、個人の暗号資産の証拠金取引について、レバレッジの上限が2倍に制限されています。これは投資家を守ることを目的とした規制で、2020年以降続いているものです。
金融庁は暗号資産(%)の取引を巡り、少額の元手で多額の売買ができる証拠金取引の倍率(レバレッジ)を2倍までとする方針を固めた。これまでは国が定めた明確なルールはなかった。過度な投機や、価格の乱高下による損失リスクを抑える狙いだ。2020年春に施行となる改正金融商品取引法の内閣府令で定める。
参照:日本経済新聞
一方、海外の取引所では、数十倍から100倍以上という高い倍率を掲げているところも珍しくありません。同じ値動きでも損益が何十倍にもふくらむため、短い期間で大きな利益をねらいたい人にとっては、強い魅力として映ります。
もっとも、倍率が上がるほど、わずかな値動きの逆行で証拠金を一気に失ってしまう危険も、同じだけ大きくなります。高い倍率は大きな利益の可能性であると同時に、大きな損失と隣り合わせでもあるため、「倍率が高いほど有利」と単純に考えないことが大切です。
豊富なデリバティブ商品
現物の売買だけでなく、無期限先物(パーペチュアル)やオプションといったデリバティブ商品の品ぞろえも、海外取引所ならではの特徴です。デリバティブとは、価格の動きそのものを対象にした取引の総称で、国内では扱いが限られているこうした商品を、海外では基本的なメニューとして用意している取引所が多くあります。
デリバティブを使うと、価格が下がる場面で利益をねらう「空売り」や、持っている資産の値下がりに備える「ヘッジ」など、現物にはない多様な戦略が可能になります。相場の見通しを持っている経験者にとっては、戦略の幅がぐっと広がる領域だといえます。
とはいえ、その仕組みは現物の売買よりも複雑で、値動きを読み違えると思わぬ損失につながりやすい面もあります。仕組みを十分に理解しないまま手を出すと、リスクだけが大きくなってしまうため、経験の浅いうちは慎重になりたい商品だといえます。
手数料の安さと高機能なツール
取引にかかるコストや、ツールの環境という面でも、海外取引所に強みを感じている人は少なくありません。取引手数料が低めに設定されていたり、取引量に応じた割引が手厚かったりするケースがあります。
さらに、自動売買のためのAPIやbot(プログラムによる自動取引)との連携がしやすい点や、口座開設や入金に対してボーナスが用意されている点も、コストや使い勝手を重視する人を引きつけています。頻繁に売買する人や、システムを使った取引をしたい人にとっては、見過ごせない要素でしょう。
ただし、手数料の仕組みやボーナスの条件は見直しが多く、表面的な数字だけでは実際の負担が見えにくいものです。何がどこまで本当にお得なのかは、その人の取引スタイルによって大きく変わってきます。
【自己診断】海外取引所が必要なタイプ
海外取引所のメリットは確かに存在しますが、それが役に立つかどうかは人によって異なります。ここでは4つの質問に「はい」か「いいえ」で答えるだけで、今の自分に海外取引所が必要かどうかを大まかに把握できる自己診断を用意しました。まずは下のフローチャートで、自分がどのタイプに当てはまるかを確認してみましょう。

タイプA | 海外取引所の利点を、今のところ必要としていない状態といえます。国内取引所でも主要な暗号資産は問題なく売買できるため、あえてリスクや手間を増やしてまで海外取引所を使う理由は見当たりません。 |
|---|---|
タイプB | 海外取引所の機能に魅力を感じてはいるものの、英語での操作や税務処理といった準備がまだ整っていない状態です。準備が不十分なまま使い始めると、思わぬ場面でつまずいたり、後になって手続きの負担が重くのしかかったりしやすいタイプといえます。まずは国内取引所で経験と知識を積みながら、必要な準備を整えていくのが無難でしょう。 |
タイプC | 明確な目的があり、リスクや手間を自分で引き受ける準備も整っている状態です。海外取引所を選択肢に入れる余地はありますが、利用にあたってはリスクへの対策が欠かせません。 |
暗号資産を始めて間もない人や、主要な銘柄を長期で保有したい人の多くは、タイプAに当てはまります。特定の機能を強く必要とする一部の経験者を除けば、国内取引所で不足を感じる場面はそれほど多くないのが実情です。
海外取引所で実際に起きるトラブル
海外の取引所は国内に無いメリットがある一方で、口座を開いて実際に使い始めた後に、国内取引所ではあまり起こらない問題に直面する人がいるのも事実です。そのため、もしも海外取引所を利用するのであれば、実際にどんな出来事があるか知っておくことが重要です。
ここでは、海外取引所の利用者が現実に巻き込まれてきた代表的なトラブルを、ご紹介します。
ある日突然出金できなくなる
海外取引所をめぐって最も相談が多い問題のひとつが、出金に関するトラブルです。昨日まで普通に使えていた口座から、ある日を境に資金を引き出せなくなるケースがあります。原因はいくつかの類型に分けられます。
ひとつは、後から追加の本人確認(KYC)を求められるパターンです。KYCとは、氏名や住所、身分証などを提出して本人であることを証明する手続きのことです。口座開設時は簡易な確認で済んでいても、資金洗浄対策(AML)の強化を背景に、出金の段階であらためて詳細な確認を求められることがあります。このとき、引っ越しや結婚で登録情報と提出書類の内容が食い違っていると、不一致とみなされて口座がロックされ、解除の手続きが長期化することもあります。
もうひとつは、取引所側の事情による制限です。規制対応や事業方針の変更にともなって、特定の国の居住者向けサービスが縮小・停止されることがあります。実際に、Bybitは日本居住者を相手方として無登録で暗号資産交換業をおこなっていたとして、金融庁から2021年、2023年、2024年に警告を受けています。その後、Bybitは2026年1月、日本居住者向けの商品・サービスの提供を段階的に終了すると公表しました(参照:Bybit)。
2025年には、複数の海外取引所アプリがApp StoreやGoogle Playから削除され、新規ダウンロードや更新ができなくなる事態も起きています。こうした撤退局面では、限られた期間内に自分で資産を移す必要が生じ、対応が遅れると引き出しが難しくなる場合があります。
国内取引所であれば、こうした場面でも日本語での問い合わせ窓口があり、金融庁の監督下で一定の手続きが期待できます。海外取引所では、やり取りが英語中心となるのはもちろん、返答までに時間がかかることも珍しくありません。「出金できない」という状況に陥ったとき、頼れる相手が限られる点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
取引所の破綻で資産が返らない
取引所そのものが経営破綻し、預けた資産が戻らなくなるリスクもあります。象徴的な事例が、2022年に起きた大手海外取引所FTXの破綻です。
2022年11月、FTXの関連会社の財務内容に関する報道をきっかけに信用不安が広がり、利用者からの出金要求が殺到しました。FTXはこれに応じきれず出金を停止し、11月11日には米国で連邦破産法第11条の適用を申請して事実上破綻しました。後の裁判で、経営陣による顧客資産の不正な流用が明らかになっています(参照:Impress Watch)。
ここで注目したいのは、日本の利用者がどう扱われたかという点です。日本国内で登録を受けて営業していたFTX Japanについては、国内の法制度にもとづく分別管理や信託保全があり、預かり資産に見合う残高が確保されていたため、2023年から出金が再開されました(参照:ITmedia NEWS)。一方で、モバイルアプリなどを通じて海外のFTX本体を利用していた一部の日本人利用者の資産は、日本の分別管理の対象外とされ、返還が難しい状態が続きました。
この対比は、海外取引所を使うリスクの本質を示しています。同じFTXでも、日本の規制下にある事業者を通じて預けた資産は守られ、海外本体に直接預けた資産には日本の投資家保護が及びませんでした。海外取引所を直接利用するということは、原則としてこの保護の外側に自分の資産を置くことを意味します。
なお、資産の流出やハッキングは国内取引所でも過去に発生しており、国内なら絶対に安全というわけではありません。大手の海外取引所には保険的な基金を備えているところもあります。ただし、万一の際に日本の法制度による救済や日本語での対応を受けられるかどうかという点で、国内と海外には大きな差があります(関連:暗号資産取引所が倒産したら資産はどうなる?)。
偽サイトや詐欺の被害に遭う
取引所そのものの問題とは別に、取引所をかたる詐欺の被害も後を絶ちません。海外取引所は日本語の情報が少なく、正規のサービスと偽物の見分けがつきにくいため、詐欺の温床になりやすい面があります。
手口はおおむね、次のような類型に分けられます。
偽取引所型 | 実在の有名取引所に似せた名前やロゴのサイトを作り、入金させたまま連絡を絶つ。 |
|---|---|
フィッシング型 | 正規サイトそっくりの偽ログイン画面に誘導し、ID・パスワードや二段階認証コードを盗み取る。 |
SNS勧誘型 | SNSやマッチングアプリで知り合った相手が、特定の海外取引所や投資案件へ誘導し、最終的に出金させない。 |
出金手数料要求型 | 「利益を出金するには手数料や税金の先払いが必要」と称して、次々と追加の入金を求める。 |
こうした被害の規模は、統計にも表れています。警察庁によると、2024年(令和6年)のSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は約1,272億円にのぼり、前年から大きく増加しました。被害金を暗号資産で交付させる手口も確認されています(参照:警察庁)。
国内の登録取引所を利用していれば、少なくとも相手が実在の監督下にある事業者かどうかは明確です。海外取引所や、SNS経由で紹介された名前を聞いたことのないサービスを使う場合は、そもそも正規の事業者なのかを自分で見極める必要があります。被害に遭っても、相手が海外に拠点を置いていると、相談窓口や返金にたどり着くのは容易ではありません。
確定申告で想定外の負担が生じる
トラブルは、資産そのものだけでなく、税金の面でも生じます。海外取引所で利益を得た人が、確定申告の時期になって初めて、想定していなかった負担の大きさに気づくというケースです。
海外取引所は、国内取引所のように年間の損益をまとめた書類を用意してくれるとは限りません。そのため、いざ申告しようとしたときに、必要な記録が手元に揃っていなかったり、日本円への換算に手間取ったりする人が少なくありません。利益が出たこと自体は喜ばしくても、その後の申告作業でつまずくと、余計な時間や費用がかかることになります(関連:海外取引所の利益、申告者はわずか3割|誤認と計算の難しさが招く未申告の実態調査)。
海外取引所の税金と確定申告の難しさ
海外取引所の利用を考えるとき、多くの人が見落としがちなのが税金の問題です。利益が出た後の話だからと後回しにされやすいのですが、実際には口座を開く前に理解しておきたい重要な論点です。
暗号資産の税金は、そもそも国内・海外を問わず、株式などと比べて負担が重くなりやすい仕組みになっています。そのうえ海外取引所の場合は、国内取引所なら当たり前に用意されている仕組みが揃っておらず、記録の管理から日本円への換算まで、多くの作業を自分でこなさなければなりません。送金にまつわるルールが影響する場面もあります。
この章では、海外取引所ならではの税金と確定申告の難しさを、税率の仕組み、履歴管理の実務、送金ルール、そして申告漏れへの備えという順で見ていきます。制度の概要を整理したうえで、実際にどう対応すればよいかまで踏み込みます。なお、個別の税務判断は状況によって変わるため、具体的な計算や申告にあたっては税理士など専門家への相談をおすすめします。
海外取引所の税金と確定申告の難しさ
海外取引所を使うかどうかを考えるとき、多くの人が見落としがちなのが、取引を終えたあとに待っている税金と確定申告の負担です。国内取引所であっても海外取引所であっても、暗号資産の売買で利益が出れば、日本の居住者には申告と納税の義務が生じる可能性があります。
国内取引所を使う場合、確定申告に必要な書類や損益の計算は、取引所側の仕組みにある程度は乗ることができます。一方、海外取引所ではその前提が崩れ、税額の考え方から記録の集め方、送金の手続きまで、負担のかかり方が大きく変わってきます。
ここでは、海外取引所を使う人がつまずきやすい税務上のポイントを整理していきます。
利益は雑所得で総合課税
暗号資産の売買で得た利益は、国税庁の取り扱い上、原則として「雑所得」に区分され、総合課税の対象になります。総合課税とは、給与や事業などほかの所得と合算し、その合計額に応じて税率が決まる仕組みです。海外取引所で得た利益も、この扱いは変わりません。
雑所得に適用されるのは、所得が大きいほど税率が上がる累進課税です。所得税は5%から45%まで段階的に上がり、これに住民税の約10%が加わります。そのため、所得が大きい層では合計の税率が最大で約55%に達します。株式やFXの利益が申告分離課税で一律およそ20%に収まるのと比べると、負担の重さがイメージしやすいかもしれません。
累進課税で特に注意したいのは、暗号資産の利益がそれ単体で課税されるのではなく、給与などに上乗せされて税率が決まる点です。例えば、給与の課税所得が500万円ある人が暗号資産で300万円の利益を得た場合、その利益部分には、給与だけのときよりも高い区分の税率がかかってくる可能性があります。海外取引所は取扱銘柄が多く高いレバレッジも使えるため、利益が大きく膨らみやすく、その分だけ想定していなかった税負担が生じやすい面があります。
なお、暗号資産の税制は見直しの議論が続いている分野です。税率や区分の考え方は変わりうるため、申告の前には国税庁が公表する最新のFAQや、税理士など専門家への確認をおすすめします(参照:暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について|国税庁)。
取引報告書がなく履歴管理を自分で行う
国内の暗号資産交換業者を使っている場合、多くは一年間の取引をまとめた「年間取引報告書」が交付されます。売買の履歴や損益の計算に必要な情報がある程度そろった形で受け取れるため、申告の下準備はそれほど大きな手間になりません(例:bitbank)。
海外取引所では、この報告書が交付されないことが一般的です。仮に取引データを取得できても、日本の様式に沿っていなかったり、表記が英語や外貨建てだったりするため、そのままでは申告に使えないことが少なくありません。結果として、記録を集め、日本円に直し、損益を計算するという作業を、利用者が自分でおこなう必要が出てきます。
実際の手順としては、おおよそ次のような流れになります。
- 各取引所の管理画面から、売買履歴をCSVなどの形式でダウンロードする(取引所によってはAPI連携でまとめて取得する)
- 取引所間の送金記録や、ウォレットへの入出金の履歴も併せて保存する
- それぞれの取引について、取引が成立した時点の相場で日本円に換算する
- 換算した金額をもとに、一年間の損益を集計する
換算の際に見落としやすいのが、暗号資産同士の交換も課税の対象になるという点です。例えば、ビットコインで別の銘柄を購入した場合も、その時点で損益が確定したものとして計算する必要があります。海外取引所は取引の回数や銘柄数が多くなりがちで、その分の記録量も膨らみます。年をまたいでから慌てて集めようとすると、過去の相場をさかのぼって調べる手間がかさむため、取引のたびに履歴を保存しておくと後の負担を抑えられます。
トラベルルールで送金が複雑になる
海外取引所を使ううえで、資金の送金そのものが以前より複雑になっている点も押さえておきたいところです。背景にあるのが、マネーロンダリング対策として国際的に導入が進む「トラベルルール」です。日本でも2023年6月に改正された犯罪収益移転防止法により、国内の暗号資産交換業者にこの対応が義務づけられました。
トラベルルールとは、暗号資産を送るときに、送付人と受取人の情報を交換業者どうしで通知し合う仕組みです。取引の経路をたどれるようにすることが目的で、利用者が送金する際には、受取人の情報などを申告する手続きが加わります(関連:暗号資産のトラベルルールとは?)。
実務で影響が出やすいのは、国内取引所と海外取引所の間で資金を移すときです。送金先の取引所がトラベルルールにどう対応しているかによって、送金できる相手が限られたり、追加の確認を求められたりすることがあります。対応状況は取引所ごとに異なり、変更されることもあるため、送金の前に、利用中の取引所と送金先それぞれの案内を確認しておくと安心です。
申告漏れのリスクと対策
ここまで見てきたように、海外取引所では損益の計算や記録の管理を自分で担う場面が多く、その難しさが申告漏れにつながりやすい構図があります。「取引所から書類が来なかった」「暗号資産同士の交換が課税対象だと知らなかった」といった理由で、悪意なく申告が漏れてしまうケースも珍しくありません。
申告漏れは、決して見逃されるわけではありません。国税庁は暗号資産取引をおこなう個人への調査を強めており、公表資料によれば、令和4事務年度には615件の調査のうち548件で申告漏れなどの指摘があったとされています。報道では、年収900万円ほどの会社員が暗号資産の申告漏れで2億円を超える追徴課税を受けた事例も伝えられています。税務調査は数年さかのぼっておこなわれることがあり、本来の税額に加えて加算税や延滞税といったペナルティが上乗せされる点にも注意が必要です。
こうしたリスクへの備えとして、現実的な対策は次の2つです。
損益計算ツールの活用 | 税理士への相談 |
|---|---|
暗号資産の損益計算に対応した専用ツールを使うと、複数の取引所やウォレットの履歴を取り込み、日本円への換算や集計をまとめて処理できます。海外取引所のデータ形式に対応しているものもあり、手作業の負担と計算ミスを減らせます。 | 取引が多い場合や、判断に迷う取引がある場合は、暗号資産の申告に詳しい税理士へ相談するのが確実です。個別の事情に応じた計算や申告の可否は、専門家でなければ判断が難しい領域です。 |
税額の計算や申告の要否は一人ひとりの状況によって変わります。本記事は制度の概要を示すものにとどまるため、具体的な申告にあたっては、必ず国税庁の最新情報を確認し、税理士など専門家に相談してください(関連:暗号資産に強い税理士の選び方)。
海外取引所をめぐる法規制と合法性
日本では、暗号資産の交換サービスを事業として提供する場合、資金決済法にもとづく登録が必要です。この制度は、たび重なる流出事件や経営破綻を教訓に強化されてきました。
一方、海外の取引所の多くはこの登録を受けておらず、当局から名指しで注意を促されている事業者も存在します。どの取引所がいつサービスを絞るのかも、当局や各社の判断で移り変わっていきます。
制度上の線引きを押さえたうえで、利用環境が変わりうるという現実を見ていきましょう。
金融庁の登録制度と無登録業者への警告
日本国内で暗号資産の交換サービスを事業として営むには、資金決済法にもとづき、金融庁(財務局)への登録が必要です。登録を受けた事業者は「暗号資産交換業者」と呼ばれ、利用者から預かった資産を自社の資産と分けて管理する分別管理をはじめ、本人確認やシステムの安全対策など多くの義務を負います。
問題は、海外を拠点とする取引所の多くがこの登録を受けていない点です。金融庁は、登録を受けずに日本の居住者向けに暗号資産交換業を行っている事業者に対し、警告書を発出して事業者名を公表しています。世界最大手として知られるBinanceも、かつては無登録営業を理由に警告を受けた一社でした(参照:無登録で暗号資産交換業を行う者の名称等について)。
ここで押さえておきたいのが、「無登録業者であること」と「利用者が罰せられること」は別だという点です。資金決済法が登録を義務づけているのは、あくまで交換業を営む事業者側です。少なくとも現行の資金決済法には、日本の居住者が金融庁に登録されていない海外取引所を、単なる利用者として使ったこと自体を直接処罰する規定はありません。つまり、海外取引所を使う行為がただちに違法になるわけではない、というのが現時点での線引きです。
とはいえ、これは「使っても安全」という意味ではありません。無登録の事業者は日本の当局の監督下になく、分別管理などの利用者保護のルールが及びません。その差が現実に表れたのが、2022年のFTX破綻です。海外取引所を利用する際は、利用自体が違法かどうかだけで判断するのではなく、トラブルが起きたときに日本の制度による保護や救済を受けられるかどうかまで考える必要があります。
海外取引所が使えなくなる可能性
制度上の線引きに加えてもう一つ意識したいのが、利用できる環境そのものが変わりうる点です。海外取引所は、規制当局の動きや各社の経営判断によって、日本の居住者向けサービスを絞ったり取りやめたりすることがあります。昨日まで使えていた取引所が、ある日を境に新規登録を止めたり、既存の利用者にも口座の移行や出金を求めたりする展開は、現実に起きてきました。
その象徴がBinanceです。無登録営業で警告を受けていた同社は、その後に日本市場との向き合い方を大きく変えました。2022年に国内の登録業者サクラエクスチェンジビットコイン(SEBC)の買収を発表し、2023年8月には登録業者「Binance Japan」として営業を始めます。
これにより、グローバル版を使っていた日本の利用者は、国内法人への移行か資産の出金かの対応を迫られ、取り扱う銘柄やサービスも日本の規制に合わせて絞り込まれました。利用者側に落ち度がなくても、事業者や規制の判断ひとつで利用環境が丸ごと変わりうる一例です。
背景には、各国で強まる規制の潮流があります。マネーロンダリング対策や利用者保護の観点から当局が無登録業者への監視を強め、事業者側も対応地域を見直す動きが続いています。こうした変化は事前に大きく告知されるとは限らず、気づいたときにはすでに登録や取引が制限されていたというケースもあります。
突然サービスが使えなくなれば、資産の移動や出金を急ぐ必要に迫られ、日本語の問い合わせ窓口が乏しい取引所では手続き自体に手間取ることも考えられます。最新の規制動向や各取引所の対応状況は、金融庁の公表情報や各社の公式発表で、その都度確認することをおすすめします。
多くの初心者には国内取引所をすすめる理由
暗号資産を初めて購入する人や、ビットコインなどの主要銘柄を現物で運用したい人にとっては、利用者保護や手続きの分かりやすさを考えると、まずは国内取引所を選ぶほうが無理なく取引を始められます。
国内で暗号資産交換業を営む事業者は、金融庁への登録が必要です。登録業者であることが破綻や不正流出を完全に防ぐ保証になるわけではありませんが、所在や運営主体が不明確な海外事業者と比べると、問題が起きた際の責任関係や相談先を把握しやすい点は安心材料になります。
顧客から預かった資産についても、国内の登録業者には管理方法に関するルールがあります。利用者から預かった金銭は信託会社などへの信託によって分別管理し、暗号資産は原則としてインターネットから切り離したコールドウォレットで分別管理する仕組みです。なお、暗号資産そのものがすべて信託によって元本保証されるわけではありません。あくまでも、事業者自身の財産と利用者の財産を区別し、流出や破綻による影響を抑えるための管理体制が設けられています。
問い合わせや本人確認などの手続きを日本語で進められる点も、初心者にとって重要です。入出金の保留や誤送金、ログインできないといった問題が起きたとき、海外取引所では英語で状況を説明し、必要な書類を提出しなければならない場合があります。国内取引所であれば、日本語の案内やサポートを利用できるため、問題の原因や必要な対応を把握しやすくなります。
税金の計算に必要な情報を集めやすい点も、国内取引所を選ぶメリットです。国内の暗号資産交換業者では、年間の購入額や売却額などを記載した年間取引報告書や取引履歴を取得できる場合があります。海外取引所のように複数の通貨や取引時点の価格を自分で集計する場合と比べると、確定申告に必要な損益を整理しやすいでしょう。
もちろん、国内で扱っていない特定の銘柄を購入したい場合や、先物・オプションなどを利用したい場合には、海外取引所が選択肢に入ることもあります。ただし、そのメリットを明確に説明できない段階で、利用者保護や税務管理の負担が大きい環境を選ぶ必要性は高くありません。主要な暗号資産の購入や積立から始めるのであれば、金融庁の登録を受けた国内取引所を利用するのが無難な選択です。
よくある質問
海外取引所については、サービス側の利用条件や国内制度が変化するため、過去の情報だけで判断するのは危険です。利用前に確認しておきたい代表的な疑問をまとめました。該当する項目から確認してください。
海外の暗号資産取引所は日本で使えるか
日本居住者の利用を受け付けているサービスであれば、日本から利用できる場合があります。ただし、海外取引所にアクセスできることと、日本で暗号資産交換業者として登録されていることは別です。
資金決済法第63条の2では、暗号資産交換業をおこなう事業者に内閣総理大臣の登録を求めています。この規定が直接規制しているのは事業者側であり、利用者に登録義務を課すものではありません。一方、金融庁は、日本居住者を相手に無登録で暗号資産交換業をおこなう海外事業者へ警告を発しており、利用時には登録業者か確認するよう注意を促しています。
したがって、海外取引所を利用するだけで直ちに利用者が処罰されるという関係ではありませんが、日本の登録業者に求められる資産管理や利用者保護の仕組みが同じように適用されるとは限りません。口座を開設する前に、金融庁の登録一覧と取引所の利用規約を確認する必要があります。
海外取引所は突然使えなくなるのか
海外取引所が日本居住者向けの新規登録や取引を停止する可能性はあります。各国の規制強化やライセンス方針の変更、取引所側の事業判断によって、利用できる国やサービス内容が見直されるためです。告知から制限開始までに一定の期間が設けられても、その間に保有資産の移動や未決済ポジションの処理が必要になることがあります。
このような制限は、取引所の破綻や不正がなくても発生します。海外取引所を利用する場合は、公式からのメールやお知らせを定期的に確認し、通知を受けてから慌てて対応する状態を避けることが重要です。
海外暗号資産取引所に本人確認は必要か
本人確認の要否や提出書類は取引所によって異なりますが、本人確認をせずにすべての機能を継続利用できるとは考えない方がよいでしょう。口座を作成できた場合でも、入金や取引、出金の段階で本人確認を求められたり、利用限度額を制限されたりすることがあります。
本人確認では、パスポートなどの身分証明書、顔写真、現住所を確認できる書類などの提出を求められるのが一般的です。取引所や利用する機能によっては、追加の住所確認や資金源の確認が必要になる場合もあります。
海外取引所の利益にかかる税金はどうなるか
日本で所得税の申告対象となる人が海外取引所で得た利益も、原則として日本の課税対象です。取引所が海外にあることや、日本円として国内の銀行口座へ出金していないことを理由に、課税されなくなるわけではありません。
海外取引所を複数利用している場合や、暗号資産同士の交換、先物取引、ステーキングなどを行っている場合は、損益計算が複雑になります。判断が難しい場合は、取引履歴を消さずに保存したうえで、暗号資産税務に詳しい税理士へ相談してください。
まとめ|海外取引所は目的とリスクを比較して判断しよう
海外の暗号資産取引所には、取扱銘柄の多さや高いレバレッジ、豊富なデリバティブ商品など、国内取引所にはないメリットがあります。国内では利用できない銘柄や取引機能を明確な目的をもって使いたい経験者にとっては、有力な選択肢になるでしょう。
一方で、海外取引所の多くは日本の金融庁に登録されておらず、国内の登録業者に求められる分別管理や利用者保護の仕組みが同じように適用されるとは限りません。出金停止や経営破綻、偽サイトによる詐欺に加え、規制や事業方針の変更によって日本居住者向けサービスが突然制限される可能性もあります。
また、取引履歴の保存や日本円への換算、損益計算などを自分でおこなわなければならないケースが多く、確定申告の負担も軽くありません。利益を得られるかどうかだけでなく、トラブルへの対応や税務管理まで自分で担えるかを含めて判断する必要があります。
特定の海外銘柄や取引機能を必要としておらず、ビットコインなどの主要銘柄を購入・積立したいのであれば、あえて海外取引所を選ぶ必要性は高くありません。まずは金融庁に登録された国内取引所を利用し、海外取引所を使う場合は、必要性とリスクを十分に確認したうえで、預ける資産を必要最小限に抑えることが重要です。
