利用している取引所が倒産してしまった場合、自分の保有する暗号資産がどうなるのか、不安に感じたことはありませんか?特に、暗号資産を取引所で管理している場合、その不安はより強いかと思います。実際に2022年には、大手暗号資産取引所FTXが経営破綻し、多くの利用者が資産を引き出せなくなる事態が発生しました。このような出来事は、決して他人事ではありません。

暗号資産は銀行預金とは異なり、預金保険のように資産が守られる仕組みがあるわけではありません。そのため、取引所の状況によっては、資産をすぐに引き出せなくなる可能性があります。

この記事では、取引所が倒産した場合に資産がどうなるのかを整理したうえで、その仕組みや実際の事例、倒産の兆候、そして資産を守るための対処法まで解説します。

暗号資産取引所が倒産すると資産はどうなるのか

暗号資産取引所が倒産した場合、預けている資産はすぐに引き出せなくなる可能性があります。自分の資産であっても自由に動かせない状態になる他、資産が全額戻るとは限らないかも知れません。

では、実際に倒産時にはどのような問題が発生するのか、具体的に見ていきます。

取引所が倒産時に起きること

暗号資産取引所が倒産する場合、多くのケースでは、いきなり完全に機能が停止するわけではなく、段階的に問題が表面化していきます。そのなかで最も影響が大きいのが、出金に関する制限です。

まず、資金繰りが悪化すると、出金処理に遅れが生じたり、一部の出金が制限されたりするようになります。この段階ではまだ完全に停止していないものの、利用者が資産を自由に動かせない状況が徐々に広がります。

その後、状況がさらに悪化すると、出金が全面的に停止されます。ログイン自体はできても、資産を外部に送ることができず、口座に表示されている残高があっても実質的には動かせない状態になります。売買や送金といった機能も制限され、資産は事実上ロックされた状態になります。この段階になると、多くの利用者が不安を感じ、一斉に資産を引き出そうとする動きが広がります。いわゆる取り付けのような状態が発生し、取引所の状況はさらに悪化していきます。

最終的に破産手続きに入ると、利用者の資産は債権として扱われ、返還の可否や割合はその手続きのなかで決められます。この過程では、資産が戻るまでに長い時間がかかることが多く、すぐに解決するケースはほとんどありません。このように、取引所の倒産時には「出金制限 → 出金停止 → 返還手続き」という流れで問題が進行していくのが一般的です。

なぜ資産が引き出せなくなるのか

暗号資産が引き出せなくなる理由は、その管理の仕組みにあります。暗号資産は銀行口座のように「口座名義」で管理されているわけではなく、「秘密鍵」と呼ばれる情報を持っている人が管理権を持つ仕組みになっています。取引所に暗号資産を預けている場合、この秘密鍵は利用者ではなく取引所が管理しています。つまり、口座に表示されている残高は自分の資産であるものの、実際にそれを動かす権限は取引所側にある状態です。

そのため、出金を行う際も、利用者が直接資産を動かしているわけではなく、取引所のシステムを通じて処理されています。もし取引所の運営が停止したり、システムが止まったりすると、この出金機能自体が使えなくなります。さらに、取引所は資産の流出を防ぐために、意図的に出金を停止することもあります。このような状況になると、たとえ口座に残高があっても、自分の判断で資産を動かすことはできなくなります。

このように、暗号資産は「どこに保管しているか」によって、実際のコントロール権が大きく変わる点が特徴です。

実際に起きた破綻事例(FTX)

暗号資産取引所の破綻は、決して珍しい出来事ではありません。なかでも大きな注目を集めたのが、2022年に発生したFTXの経営破綻です。FTXは2019年に設立された暗号資産取引所で、短期間で急成長し、ピーク時には100万人以上のユーザーを抱えるなど、世界有数の規模にまで拡大しました。

このような大規模な取引所であっても、短期間で経営が行き詰まり、最終的には破産手続きに至るケースがあります。実際にFTXの破綻では、多くの利用者が資産を引き出せない状況に直面しました。見た目には問題がないように見えても、内部の資金管理や経営体制に問題がある場合、突然状況が悪化する可能性があります。

こうした事例から分かるのは、「大手だから安心」とは言い切れないという点です。では、実際にFTXではどのような経緯で問題が発生し、利用者の資産はどのような状況に置かれたのでしょうか。順を追って見ていきます。

FTXで実際に起きたこと

FTXでは、2022年11月に関連企業であるアラメダ・リサーチの財務内容に対する懸念が報じられたことをきっかけに、資金管理への不信感が一気に広がりました。特に、資産の多くが自社トークンであるFTTに依存していた点が問題視され、利用者の間で不安が高まります。この影響により、短期間で大量の出金が発生しました。いわゆる取り付けの状態となり、FTXは急増する出金要求に対応できず、出金機能を停止することになります。

出金停止後は、口座に残高が表示されていても、外部のウォレットや他の取引所へ資産を移すことができなくなりました。さらに、取引や送金といった機能にも制限がかかり、資産は実質的にロックされた状態となります。出金申請を行っていた利用者のなかには、処理が完了しないまま停止されたケースも報告されています。

その後、FTXは2022年11月11日に米国の連邦破産法第11章の適用を申請し、経営破綻に至りました。この時点で、利用者の資産は自由に動かせないまま、破産手続きのなかで扱われることになりました。

日本法人でも資産は一部返還されなかった

FTXの破綻後、利用者の資産の扱いは、海外と日本で異なる対応となりました。まず海外のFTXでは、破産手続きに移行したことで、利用者は債権者として扱われることになり、資産の返還は裁判所の判断に委ねられています。実際に、野村総合研究所の解説でも以下のように指摘されています。

チャプター11の下では、会社からの資産回収は停止される。そのうえで、顧客が債権者としてどの程度の資産を取り戻すことができるかについては、裁判所の決定を待たねばならない。

参照:野村総合研究所

このように、海外のFTXでは、資産はすぐに返還されるものではなく、法的手続きの中で処理される仕組みとなっています。

一方、日本法人であるFTX Japanについては、異なる対応が取られました。東洋経済の記事では、次のように説明されています。

FTXジャパンが出金・出庫の再開、つまり顧客資産の返還を始めたのは今年2月。日本の規制の下、同社は顧客から預かった暗号資産などを会社の資産とは別に管理しており、約10万人いたFTXジャパン利用者の190億円分もの資産は、問題なく返還されるはずだった。

参照:東洋経済オンライン

上記から分かる通り、利用者の資産は会社資産とは分けて管理されていたため、制度上は返還される前提となっていました。しかし、実際には「当社分別管理の対象外」と一部の利用者に通告し、すべてが返還対象にはなりませんでした。

取引所の倒産に備えるための対処法

暗号資産取引所には、経営破綻や出金停止といったリスクが存在します。また、すべてのケースで即時返還が保証されているわけではありません。このようなリスクを踏まえると、取引所に資産を預けたままにするのではなく、利用者自身が管理方法を工夫することが重要です。特に、資産の分散や保管方法の見直しは、リスクを抑えるうえで基本となる考え方です。

ここでは、具体的にどのような対処を取るべきかについて、順を追って解説します。

資産を一つの取引所に集中させない

暗号資産取引所は、それぞれ経営体制やシステム環境が異なります。そのため、どの取引所でも一定のリスクを抱えており、問題が発生する可能性はゼロではありません。こうした状況で資産を一つの取引所に集中させていると、その取引所に不具合や出金停止が起きた場合、保有している資産すべてが同時に動かせなくなるおそれがあります。これは、売却や他サービスへの移動といった判断ができなくなる状態を意味します。

一方で、複数の取引所に資産を分けておけば、仮に一つの取引所で問題が発生しても、他の取引所にある資産は引き続き利用できます。結果として、影響を一部にとどめることが可能になります。

資産の分け方に明確な基準はありませんが、保有額が大きくなるほど、一つの取引所に依存するリスクは高まります。そのため、一定以上の資産を保有する場合は、複数の取引所を利用して分散管理することが現実的な対処といえます。

長期保有分はウォレットに移して管理する

暗号資産を長期保有する場合は、取引所に置いたままにするのではなく、ウォレットに移して管理することが重要です。ウォレットとは、暗号資産を保管・管理するための仕組みです。取引所の口座とは異なり、自分で資産の管理を行う点が特徴です。

取引所が倒産した場合、取引所に預けている資産は自由に動かせなくなる可能性があります。これは、資産の引き出しが制限される、あるいは返還までに時間を要するケースがあるためです。一方で、ウォレットに移して管理している資産は、取引所の管理外にあります。そのため、取引所の状況に左右されず、自分の判断で資産を移動させたり、別の取引所で再び管理したりすることが可能です。

このように、資産の保管場所によって受ける影響は大きく異なります。長期保有を前提とする場合は、売買に使用する分のみを取引所に残し、それ以外の資産はウォレットに移して管理することが現実的な対処といえます。

異変を感じたら早めに資産を移す

取引所の倒産は、何の前触れもなく起きるとは限りません。実際には、出金の遅延や一時停止、経営に関する不安な報道など、何らかの兆候が見られるケースがあります。

こうした変化が見られる段階では、すでに資金繰りや内部の運営状況に問題が生じている可能性があります。そのため、「様子を見る」という判断が、結果的に対応の遅れにつながることもあります。特に注意すべきなのは、出金に関する制限です。一度でも出金停止や制限がかかると、その後は資産を動かせなくなる可能性が高まります。

このようなリスクを踏まえると、明確な問題が表面化してからではなく、違和感を覚えた段階で資産を移す判断が重要です。早い段階で対応しておくことで、取引所の影響を受ける範囲を最小限に抑えることができます。

まとめ

暗号資産取引所が倒産した場合、預けている資産はすぐに自由に扱えるとは限りません。紹介した実例からも分かる通り、資産の出金が制限されたり、返還までに時間がかかるケースが想定されます。日本では分別管理が義務付けられていますが、それでもすべての資産が即時かつ確実に返還されるわけではありません。状況によっては、返還に条件が付いたり、一部が対象外となる可能性もあります。

このように、「取引所に預けていれば安全」という前提は成り立ちません。そのため、リスクは取引所任せにするのではなく、利用者自身でも管理していく必要があります。具体的には、資産を複数の取引所に分けることや、ウォレットを活用して保管場所を見直すことが有効です。さらに、異変を感じた段階で早めに対応することで、影響を最小限に抑えることができます。

取引に使う分だけを取引所に残し、それ以外の資産は分散またはウォレットで管理するなど、取引所の倒産に慌てない準備を整えておきましょう。