決算の準備を進めていて、「法人が暗号資産(仮想通貨)を持っていると、売っていなくても税金がかかる」という話に行き当たった方は多いはずです。個人で取引していたときの感覚では、利益は売って初めて生まれるものでした。それが法人になると、保有しているだけで所得が計上される。まずここでつまずきます。

この扱いは例外的な運用ではなく、法人税法に定められた原則です。ただし、法人が持つ暗号資産のすべてが対象になるわけではありません。対象になるかどうかは、銘柄の性質と取引の状況によって明確に分かれます。にもかかわらず、「法人だから全部課税される」と早合点したまま決算の見通しを立ててしまうケースが少なくありません。なお、当記事内では以降「暗号資産」に統一して解説します。

この記事では、なぜ含み益にも課税されるのかという理由から始めて、期末時価評価の対象になる範囲の切り分け方、実際の評価損益の計算手順、そして法人化の損得を分ける条件までを順に整理します。数字を使った計算例も用意したので、自社の保有状況を当てはめながら読み進めてください。読み終えたときに、「自社は対象なのか」「決算でいくら所得が動きそうか」を自分の言葉で説明できる状態を目指します。

法人が保有する暗号資産は、なぜ含み益にも課税されるのか

結論から書きます。法人が保有する暗号資産は、売却して利益を確定していなくても、決算期末の時点で価格が上がっていれば、その含み益が課税対象になるのが原則です。

「売っていないのに税金がかかる」という感覚のズレは、個人の課税ルールを基準に考えているために生じます。個人が暗号資産で利益を得た場合、原則として雑所得となり、課税されるタイミングは売却・交換・決済などで利益が実現したときです。保有し続けているだけなら、期末に価格が何倍になっていても申告する所得は発生しません。

ところが法人には、この「実現するまで課税されない」という考え方が当てはまりません。法人税法第61条では、一定の暗号資産について期末時点の時価で評価し直し、帳簿価額との差額をその事業年度の益金または損金に算入することが定められています。つまり、法人にとっての期末は「決算日にいったん時価で洗い直す日」であり、売却したかどうかは課税されるかどうかの決定要因ではありません。

個人と法人の違いを整理すると、次のようになります。

  • 個人:原則として雑所得。総合課税で、売却・交換・決済などにより利益が実現した時点で課税される。
  • 法人:期末時価評価が原則。含み益は益金に、含み損は損金に算入され、保有し続けているだけでも課税関係が生じる。

ここで見落としやすいのが、税金は円で納めるという点です。含み益に課税されると、手元に現金が増えていないのに納税義務だけが先に発生します。価格が大きく上昇した年度の決算では、納税資金をどう用意するかが実務上の論点になります。逆に、期末に価格が下がっていれば含み損が損金となり、その事業年度の所得を押し下げる方向に働きます。含み益だけが一方的に課税される仕組みではなく、評価損益の両方向が反映される点は押さえておきたいところです。

もう一点、重要な前提があります。法人が持つ暗号資産のすべてが、無条件に期末時価評価の対象になるわけではありません。期末時価評価の対象となるかどうかは、保有している暗号資産の性質や取引の状況によって分かれます。自社の保有分がどちらに当たるのかを切り分けないまま「法人だから含み益にも課税される」と決めつけると、実態と合わない前提で決算の見通しを立てることになります。次章では、その分かれ目を具体的に見ていきます。

含み益課税の対象になる/ならないの分かれ目

法人が保有する暗号資産は、税務上いくつかの類型に分けて扱われます。分かれ目は「その暗号資産が期末時価評価の対象になるかどうか」の一点です。対象になれば含み益が益金に、含み損が損金に算入されます。対象外であれば期末に評価し直す必要はなく、取得したときの価額のまま帳簿に残るため、価格が上がっていても課税されません。同じ「法人が暗号資産を持っている」状態でも、決算での扱いは正反対になります。

暗号資産の4分類と、期末評価の対象になる範囲

法人税法上、暗号資産は大きく4つに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 特定自己発行暗号資産:自社が発行し、発行時から継続して保有しているなど、一定の要件を満たすもの。期末時価評価の対象外。
  • 特定譲渡制限付暗号資産:他社が発行したものであっても、譲渡についての制限が付され、後述の要件を満たすもの。期末時価評価の対象外。
  • 市場暗号資産:活発な市場が存在する暗号資産。期末時価評価の対象になり、含み益・含み損が損益に反映される。
  • その他の暗号資産:活発な市場が存在しないもの。期末時価評価の対象外で、原価のまま評価する。

このうち、実務で新しい論点になっているのが特定譲渡制限付暗号資産です。令和6年度税制改正で新設された類型で、他社が発行した暗号資産であっても、譲渡制限が付されていて一定の要件を満たすなら期末時価評価の対象から外れます。

その要件は、法人税法第61条とこれを受けた法人税法施行令第118条の7に定められています。骨格は2つです。1つは、他の者に移転することができないようにする技術的な措置が講じられていること、または一定の要件を満たす信託の信託財産としていることです。もう1つは、その暗号資産について所定の事項を認定資金決済事業者協会である日本暗号資産取引業協会(JVCEA)へ通知していることです。

ここで注意したいのは、「売らずに長く持つつもりだから対象外になるはずだ」という理解が通らない点です。対象外になるのは、移転できない状態が技術的または信託によって担保され、その旨が所定の手続で通知されている場合です。保有する側の意図や社内での方針決定は要件になっていません。自社の保有分をこの類型に当てはめて考えるときは、単に長期保有かどうかではなく、技術的措置や信託の有無と通知の実施を事実として確認する必要があります。

「活発な市場」と判定される3つの要件

4分類のうち、多くの法人にとって実際の分岐点になるのは、保有している暗号資産が「市場暗号資産」に当たるかどうかです。ここを分けるのが「活発な市場が存在するかどうか」という判定で、法人税法施行令第118条の7では次の3つの観点から判断することとされています。

  • 継続的に価格が公表され、その価格の推移を確認できること。
  • その価格をもとに、十分な数量および頻度で売買・交換の取引が行われていること。
  • 価格の公表または売買・交換の取引が、自社以外の者によって行われていること。

読み替えると、「値段が常に見えていて、その値段で実際に取引が成立していて、しかもそれを自社以外の第三者が担っている」という状態が求められています。3つのうちどれか1つを満たせばよいのではなく、いずれも備わっていて初めて活発な市場があると判断される点が重要です。

国内の暗号資産交換業者で日常的に売買されている主要な銘柄は、価格が継続的に公表され、第三者間で相当量の取引が成立しています。こうした銘柄を保有している場合、期末時価評価の対象になる前提で決算を組む必要があります。反対に、取引の場がほとんどなく参照できる価格が見当たらないもの、自社やごく限られた関係者の間でしか値付けが行われていないものは、活発な市場が存在するとはいえず、期末に評価し直す対象から外れる方向で検討することになります。

もっとも、境界にある銘柄の判定は簡単ではありません。上場している交換業者があっても取引量が極端に細い場合や、期中に取扱いが始まった場合、期末の時点で条件がどう整っていたかを確認する必要があります。3要件は判断の枠組みを示したものであり、機械的に白黒がつく基準ではありません。自社の保有銘柄が微妙な位置にあると感じたら、決算の直前ではなく余裕のある時期に、期末時価評価の対象として扱うかどうかを税理士と確認しておくのが安全です。

【計算例】期末の評価損益はどう計算するか(洗替処理・移動平均法)

ここからは、実際に数字を置いて計算の流れを追います。以下は説明のために作った仮の設例で、特定の企業の実例ではありません。金額や価格の水準も計算方法を示すために置いたものであり、将来の相場を示すものではありません。

設例として、3月決算のA社を考えます。A社は期中にビットコインとイーサリアムを取得し、期末時点でどちらも保有し続けているものとします。どちらも国内の交換業者で日常的に売買されている銘柄なので、期末時価評価の対象になる前提で計算します。

まず取得価額を移動平均法でそろえる

暗号資産は同じ銘柄を何度かに分けて買うのが普通です。そのため、期末に評価する前提として「1単位あたりいくらで持っているか」を確定させる必要があります。この単価の計算に使うのが移動平均法です。原則はこの方法で、所定の届出をすれば総平均法を選ぶこともできます。

A社のビットコインの動きは次のとおりです。

  • 4月:1.0BTCを900万円で取得
  • 9月:1.0BTCを1,300万円で取得

この時点で保有は2.0BTC、取得価額の合計は2,200万円です。移動平均法では、取得のたびに保有総額を保有数量で割り直して単価を更新します。ここでの単価は1BTCあたり1,100万円になります。

その後、12月に0.5BTCを625万円で売却したとします。このとき帳簿から外れる原価は、売ったときの相場ではなく移動平均で求めた単価を使うため、1,100万円×0.5=550万円です。差額の75万円が売却による利益として、その事業年度の所得に含まれます。売却後の残高は1.5BTC、帳簿価額は1,650万円です。

イーサリアムも同じように計算します。

  • 5月:60ETHを1ETHあたり50万円で取得(3,000万円)
  • 11月:40ETHを1ETHあたり30万円で取得(1,200万円)

合計100ETH、取得価額4,200万円なので、単価は1ETHあたり42万円です。期中の売却はなかったものとします。

期末時価と比べて評価損益を出す

ここまでで確定した帳簿価額と、期末時点の時価を並べます。仮に期末の時価が1BTCあたり1,600万円、1ETHあたり36万円だったとすると、次のようになります。

銘柄

期末保有数量

帳簿価額(移動平均法)

期末時価

期末時価評価額

評価損益

ビットコイン

1.5BTC

1,650万円(1BTC=1,100万円)

1BTC=1,600万円

2,400万円

+750万円(評価益)

イーサリアム

100ETH

4,200万円(1ETH=42万円)

1ETH=36万円

3,600万円

△600万円(評価損)

合計

5,850万円

6,000万円

+150万円

評価損益は銘柄ごとに計算し、益と損を相殺しません。ビットコインの750万円は益金に、イーサリアムの600万円は損金に、それぞれ算入します。結果として所得に上乗せされる金額は差額の150万円です。ここに、12月の売却で生じた75万円の利益が別途加わります。

この設例で押さえておきたいのは2点です。1つは、期末に売却していないにもかかわらず、150万円という所得が計算上生じている点です。手元の現金は増えていないため、納税資金は別に用意する必要があります。もう1つは、含み損も同じルールで損金になる点です。相場が下がった年度は評価損が所得を押し下げる方向に働くので、含み益だけが一方的に課税される仕組みではありません。

翌期首に取得原価へ戻す(洗替処理)

期末の時価評価は、その事業年度の所得計算のために一度だけ行うもので、帳簿価額をそのまま次の期に引き継ぐわけではありません。翌期首に、前期末で計上した評価損益を反対仕訳で戻し、帳簿価額を元の取得価額に戻します。これが洗替処理です。

A社の場合、翌期首にビットコインの評価益750万円を戻し入れて帳簿価額を1,650万円に、イーサリアムの評価損600万円を戻して4,200万円に、それぞれ戻します。この戻し入れによって、前期末に課税された含み益が翌期以降に二重で計上されることはありません。

洗替処理があるため、期末時価評価は「課税のタイミングを前倒しする仕組み」と捉えるとイメージしやすくなります。最終的に売却して利益が確定したときの通算の損益は、時価評価の有無で変わりません。変わるのは、どの事業年度にいくら所得が計上されるかという配分です。相場が大きく動いた年度は、所得が実際の資金の動きと乖離しやすくなるため、決算前に評価損益の見込みを把握しておくことが実務上の要点になります。

なお、ここで示したのは計算方法の流れです。実際の申告では、選択している評価方法の届出状況や他の損益との通算、繰越欠損金の有無などによって最終的な税額は変わります。この計算だけで納付額が確定するものではない点に留意してください。

法人化すると税金はどう変わる?個人との違いと、損得を分ける判断軸

ここまで読んで「法人だと期末に課税されるなら、個人のままのほうが有利ではないか」と感じた方もいると思います。ただし、税金の有利不利は含み益課税だけで決まりません。法人には個人にはない仕組みがいくつもあり、どちらが軽くなるかは保有の仕方と事業の状況によって入れ替わります。

まず制度の骨格を対比します。個人が暗号資産の利益を得た場合、原則として雑所得に区分され、他の所得と合算して累進課税で計算されます。所得が増えるほど適用される税率も上がっていく構造なので、大きな利益が一度に出た年は税負担が重くなりやすい設計です。加えて、雑所得の損失は給与所得や事業所得といった他の所得と原則として損益通算できず、翌年以降に繰り越すこともできません。損が出た年の損失は、その年の雑所得の内側で使い切れなければ消えてしまいます。

法人はこの点が大きく異なります。法人税は所得の規模に応じて段階的に税率が上がっていく累進構造ではなく、一定の税率で計算されます。利益が大きくなるほど税率が上がり続けるわけではないため、金額が大きくなるにつれて個人との差が縮まり、あるところで逆転する構図になります。

さらに実務で効いてくるのが、損失の扱いです。法人では暗号資産の損失を他の事業の利益と通算できます。本業が黒字で暗号資産が評価損というとき、その損失は本業の利益を打ち消す方向に働きます。通算しきれずに赤字が残った場合も、青色申告法人であれば欠損金を翌期以降に繰り越し、将来の黒字と相殺できます。個人の雑所得では損失がその年で終わってしまうのに対し、法人では損失が将来使える資産として残るという違いです。

整理すると、法人化のメリットとデメリットは正面からぶつかり合っています。含み益への期末課税という前倒しの負担を引き受ける代わりに、一定税率と損益通算・繰越控除という受け皿を手に入れる構図です。どちらが重いかは、次の4つの条件で読者ごとに変わります。

  • 含み益の規模:期末時点でどれだけ含み益を抱えているか。含み益が大きいほど、売却していない段階での納税負担が重くなります。手元資金でその納税をまかなえるかが最初の関門です。
  • 他事業からの損益通算の余地:暗号資産以外に事業の利益があるか。本業の黒字と通算できる状態なら、評価損が出た年に法人の仕組みが働きます。暗号資産の保有だけを目的とした法人では、通算する相手がありません。
  • 繰越欠損金を活用できる見込み:損失を繰り越しても、将来それを吸収する黒字が見込めなければ使わずに終わります。事業として継続的な利益が見えているかどうかで、繰越控除の価値は変わります。
  • 短期売却予定か、長期保有前提か:短期で売買を回すなら、実現した損益で課税されるため期末時価評価の影響は相対的に小さくなります。反対に長期保有を前提にするほど、売らないまま期末を何度もまたぐことになり、含み益課税の重さが前面に出ます。

この4つを自社に当てはめると、方向性はかなり絞れます。たとえば、本業の利益が安定してあり、暗号資産は事業活動の一部として短期的に売買している場合は、法人の仕組みが噛み合いやすい状況です。逆に、他に事業がなく、値上がりを見込んで長く持ち続けることが目的で、期末に含み益が積み上がっていく想定なら、期末課税の負担が正面から効いてきます。

もう一点、税率や課税方式の比較だけでは見えない要素も判断に入ります。法人を設立して維持するには登記や決算申告の手間と費用がかかり、暗号資産の期末評価が加わることで決算作業自体も重くなります。逆に、法人であれば役員報酬や経費の扱いを含めた設計の幅が広がるという面もあります。税額の比較表だけで法人化の是非は決まりません。

結論として、法人化が有利かどうかは条件次第で入れ替わります。上の4条件で自社がどこに立っているかを整理したうえで、含み益の規模や事業計画といった前提を持って専門家に相談すると、話が具体的に進みます。

まとめ

法人が保有する暗号資産は、売却していなくても期末時点で価格が上がっていれば、その含み益が課税対象になるのが原則です。個人の雑所得のように利益が実現するまで待つ仕組みではないため、決算日をまたぐだけで所得が生じることになります。

ただし、保有しているすべての暗号資産が対象になるわけではありません。税務上は4つの類型に分けて考え、期末時価評価の対象になるのは活発な市場が存在する市場暗号資産です。活発な市場かどうかは、継続的な価格の公表・十分な数量および頻度の取引・自社以外の者による関与という3つの観点で判断します。特定自己発行暗号資産と特定譲渡制限付暗号資産は対象外ですが、後者は移転を防ぐ技術的措置または信託と、所定の通知という要件を満たす必要があります。保有する側の意図だけでは外れません。

計算の流れは、移動平均法で1単位あたりの帳簿価額をそろえ、期末時価と比べて銘柄ごとに評価損益を出すという順序です。含み益は益金、含み損は損金に算入され、翌期首の洗替処理で取得原価に戻すため、同じ利益が二重に課税されることはありません。期末時価評価は課税の時期を前倒しする仕組みであり、通算の損益そのものを増やすものではないと捉えると理解しやすくなります。

法人化の損得は、含み益の規模・他事業からの損益通算の余地・繰越欠損金を活用できる見込み・短期売却か長期保有かという4つの条件で入れ替わります。期末課税という負担と、一定税率・損益通算・繰越控除という受け皿のどちらが重いかは、事業の状況によって変わります。

最終的な税額や法人化の是非は、保有状況・事業内容・選択している評価方法などの個別事情によって結論が変わります。この記事で全体像をつかんだうえで、実際の申告や意思決定は税理士などの専門家に相談して進めてください。