スマホを開いて、暗号資産の取引アプリを立ち上げてほしい。そこに「USDT」や「USDC」という文字が見えるはずだ。「米ドルに連動した安定した通貨」——多くの人はそう理解している。それは半分正しいが、半分正しくない。USDTとUSDCは、アメリカの通貨覇権を21世紀のデジタル経済に拡張するための「民間の実動部隊」でもある。
2025年7月、トランプ大統領が署名した一本の法律がある。GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)。日本の金融メディアの多くは「暗号資産の規制法」と報じたが、ホワイトハウスの公式ファクトシートはこう言い切っている。
「ステーブルコインは米ドルの基軸通貨としての地位を確固たるものにする。アメリカ国債への需要を生み出し、米ドルの世界的な基軸通貨の地位を永続させる。」
暗号資産の規制ではない。米ドル覇権の維持という、20世紀から続く地政学的命題の、デジタル版の実行計画だ。
翻って日本。2025年10月27日、円建てステーブルコイン「JPYC」が正式に発行された。日本初の円建てステーブルコインの誕生に、発行元であるJPYC代表取締役の岡部典孝氏は「日本の通貨史に残る大きな分岐点だ」と強調した。だが正直に言えば、これはまだ「序章の序章」に過ぎない。
USDTとUSDCは何者か——「民間米ドル軍」という現実
まず、USDTとUSDCの実態から整理しよう。
2025年の調査によれば、法定通貨担保型ステーブルコインの90%以上が米ドルに連動しており、そのうちTether(USDT)とCircle(USDC)の2社だけでステーブルコイン市場時価総額の93%を占める。これは圧倒的な集中だ。
