暗号資産の取引では、申告漏れなどにより追徴課税が発生するケースが実際に報告されています。なかには、想定を大きく超える金額を請求される事例もあり、事前の理解が不十分なまま取引を続けるのは注意が必要です。例えば、読売新聞の報道では、暗号資産の申告漏れにより高額な追徴課税を受けたケースが紹介されています。
交換分の申告が必要とは思わず、現金化した分を除いて確定申告しなかったが、昨年9月、税務署から申告漏れの指摘を受け、過少申告加算税を含む追徴税額は2億円以上になった。
参照:読売新聞オンライン
このように、本人に悪意があったわけではなくても、課税対象だと認識していなかったことが原因で、大きな負担につながるケースもあります。
暗号資産は、取引の仕組みや課税ルールが複雑であり、特に暗号資産同士の交換や海外取引などは、課税の認識を持ちにくい場面です。そのため、意図的に申告を避けた場合だけでなく、計算ミスや認識のズレによっても、追徴課税が発生する可能性があります。
この記事では、暗号資産で追徴課税が発生する主なケースを具体的に整理したうえで、どのような点に注意すべきか、事前に防ぐための考え方について解説します。
追徴課税の仕組み

暗号資産の税金は、自分で計算して申告する「自己申告制」によって納める仕組みです。株式の特定口座のように自動で税額が確定する仕組みではないため、取引内容をもとに自分で所得を計算し、確定申告を行う必要があります。
このとき、申告内容に誤りや漏れがあると、後から税務署によって指摘されることがあります。取引履歴や口座情報などをもとに確認が行われ、申告が不足していると判断された場合には、修正が求められます。不足している税額は、追加で納める必要があります。さらに、単に差額を支払うだけでなく、状況に応じて加算税や延滞税が課される点にも注意が必要です。
このように、追徴課税は罰則というよりも、「本来納めるべきだった税額の修正」と「それに伴う追加負担」というものです。特別なケースに限らず、計算ミスや認識のズレがあれば、誰にでも起こり得るものなのです。
暗号資産で追徴課税が発生する主なケース

暗号資産は取引の種類が多く、課税対象の判断や損益計算が複雑になりやすいため、意図しない形で申告内容にズレが生じることがあります。一見すると問題がないように見える取引であっても、税務上の扱いを誤っている場合には、後から修正が求められる可能性があります。
特に、暗号資産は株式などと比べて課税ルールが分かりにくく、誤った認識のまま取引を続けてしまうケースも少なくありません。その結果、気づかないうちに申告漏れや計算ミスが発生していることもあります。
ここからは、暗号資産で追徴課税が発生しやすい主なケースをご紹介します。
利益が出ているのに申告していない
暗号資産の利益は「雑所得」に分類され、一定の条件を超えると確定申告が必要になります。ここで重要なのは、「いくらから申告が必要になるのか」という基準です。代表的な基準は、次の通りです。
給与所得がある人 | 給与所得がない人 |
|---|---|
会社員・アルバイト・パートなど | 個人事業主・主婦・学生・無職など |
まず、給与所得がある人の場合です。国税庁では、次のように定められています。
給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人
参照:国税庁 公式サイト
このように、年末調整を受けている場合であっても、暗号資産の利益などが年間20万円を超えると、確定申告が必要になります。
一方で、給与所得がない人の場合は、所得の状況によって申告の要否が判断されます。基礎控除などの制度も関係するため、「一定額までは申告不要」と単純に判断できるものではありません。
納税者本人の合計所得金額
控除額
令和6年分
以前
令和7年分
令和8年分
令和9年分
以後
132万円以下
48万円
95万円
95万円
132万円超 336万円以下
88万円
58万円
336万円超 489万円以下
68万円
489万円超 655万円以下
63万円
655万円超2,350万円以下
58万円
2,350万円超2,400万円以下
48万円
48万円
2,400万円超2,450万円以下
32万円
32万円
32万円
2,450万円超2,500万円以下
16万円
16万円
16万円
2,500万円超
0円
0円
0円
参照:国税庁 公式サイト
こうしたルールを正しく理解しないまま取引を行ってしまうと、申告が必要であるにもかかわらず手続きを行っていない状態になります。この場合、税務上は申告漏れとして扱われ、後から追徴課税が発生する可能性があります。
損益計算を誤っている
暗号資産の損益計算は、誤りが生じやすいポイントがいくつもあります。特に、どの時点で利益が確定するのかが分かりにくい点は、大きな要因のひとつです。例えば、売却したときだけでなく、別の暗号資産と交換した場合や、商品やサービスの支払いに使用した場合にも課税対象となります。しかし、こうした取引は「利益が出ている」という認識を持ちにくく、計算から漏れてしまうケースが少なくありません。
また、複数回にわたって売買を行っている場合、取得価格や利益を正確に把握すること自体が難しくなります。価格が大きく変動する中で取引を繰り返すと、どの時点でどれだけの利益が出ているのかを正確に把握するのは容易ではありません。
さらに、複数の取引所やウォレットを併用している場合、取引履歴が分散し、全体の損益を正しく集計できていないケースもあります。これにより、実際よりも少ない利益で申告してしまうことがあります。
このように、損益計算のミスは意図的なものではなく、仕組みの理解不足や管理の難しさによって発生することが多いです。その結果、過少申告と判断され、後から追徴課税が発生する可能性がある点に注意が必要です。
暗号資産同士の交換を課税対象と認識していない
暗号資産の取引では、「売却したときだけ課税される」と考えていると、申告漏れにつながる可能性があります。特に見落とされやすいのが、暗号資産同士の交換です。
例えば、ビットコインをイーサリアムに交換した場合、現金を受け取っていないため、利益が出ているという認識しにくいかもしれません。しかし、税務上はこの取引は「ビットコインを売却した対価でイーサリアムを購入した」とみなされます。そのため、交換した時点で利益が発生していれば、実は課税対象となります。
暗号資産の取引では、「交換も課税対象になる」という点を正しく理解しておきましょう。
DeFiやNFTの取引を申告していない
DeFiやNFTの取引は、通常の売買とは異なる形で利益が発生するため、課税対象と気づきにくい点に注意が必要です。
例えば、DeFiでは暗号資産を預けることで報酬を受け取ることがあります。このような報酬は、銀行の利息のような性質を持ちますが、受け取った時点で所得として扱われます。売却していなくても利益が発生している点が、見落とされやすいポイントです。
また、NFTの場合も注意が必要です。NFTを売却して利益が出た場合はもちろんですが、暗号資産を使ってNFTを購入した場合でも、その時点で暗号資産を売却したとみなされることがあります。その結果、本人に売却した意識がなくても、課税対象となるケースがあります。
このように、DeFiやNFTの取引は「売っていないから課税されない」と思っていたことで、追徴課税が発生する可能性があります。
海外取引所の取引を申告していない
海外取引所を利用している人の中には「国内の取引所ではないので申告しなくても良いと考えてしまうことがあります。実際には、海外の取引所であっても課税対象になる点には注意が必要です。国税庁では、居住者の課税範囲について次のように定めています。
非永住者以外の居住者は、所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、そのすべての所得に対して課税されます。一般的にはほとんどこのケースに該当します。 参照:国税庁 公式サイト
このように、日本に居住している場合、海外取引所で得た利益であっても課税対象となります。取引所の所在地によって課税の有無が変わるわけではありません。
また、取引データが分散していたり、履歴の取得が難しかったりすることで、正確な損益を把握できないケースもあります。こうした状況から、結果的に海外取引所の分だけ申告が漏れてしまうことがあります。
追徴課税が発生した場合の対応

追徴課税が発生した場合は、そのまま放置せず、速やかに対応することが重要です。対応が遅れるほど延滞税などの負担が増える可能性があり、結果として支払う金額が大きくなるおそれがあります。
また、突然の指摘に戸惑うこともありますが、感情的に対応するのではなく、取引内容や申告状況を整理したうえで、冷静に対処することが求められます。誤りに気づいた時点で適切に対応することが、負担を最小限に抑えるうえで重要なポイントです。
ここからは、追徴課税が発生した場合に取るべき具体的な対応について解説していきます。
速やかに修正申告を行う
申告内容に誤りがあることに気づいた場合は、速やかに修正申告を行う必要があります。修正申告とは、本来納めるべき税額に不足があった場合に、その内容を訂正して申告し直す手続きのことです。
重要なのは、税務署から指摘を受ける前に自分で対応することです。自発的に修正申告を行った場合、加算税などの負担が軽減されることがあります。一方で、指摘を受けた後に対応した場合は、ペナルティが重くなる可能性があります。
修正申告を行う際には、取引履歴や損益計算をあらためて整理し、どの部分に誤りがあったのかを正確に把握することが重要です。不正確なまま再申告を行うと、さらに修正が必要になる可能性もあります。
税務署からの連絡には適切に対応する
暗号資産の取引では、税務署から確認や照会の連絡が来ることがあります。こうした連絡を無視したり放置したりすると、状況が悪化する可能性があります。対応が遅れることで、追加の説明を求められたり、調査が進んだりすることもあるため注意が必要です。
まずは通知内容を正確に確認し、求められている資料や説明を整理することが大切です。取引履歴や計算内容を見直しながら、事実に基づいて対応することが求められます。不明点がある場合はそのままにせず、税務署や専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
必要に応じて専門家に相談する
暗号資産の税務は仕組みが複雑であり、取引内容によっては自分だけで正確に判断することが難しい場合があります。特に、取引回数が多い場合や複数のサービスを利用している場合は、計算や申告の負担が大きくなりやすい傾向があります。
こうした状況で誤った判断のまま対応を進めてしまうと、結果的に不利な申告となったり、後から修正が必要になったりする可能性があります。自分では問題ないと考えていても、税務上は誤りと判断されるケースもあるため注意が必要です。
そのため、対応に迷う場合は税理士などの専門家に相談することも選択肢のひとつです。取引内容や状況に応じて適切なアドバイスを受けることで、正確な申告につなげることができます。無理に自己判断で進めるのではなく、必要に応じて専門家の力を借りることが、結果的にリスクを抑えることにつながります。
追徴課税を防ぐために押さえておくべきポイント

これまで見てきた通り、暗号資産の取引では、認識のズレや計算ミスといった日常的なミスが追徴課税の原因となるケースも少なくありません。そのため、取引内容の管理や課税ルールの理解といった基本的な対応を行うことで、申告漏れや計算ミスを避けることができます。
ここでは、追徴課税を防ぐために押さえておくべき具体的なポイントを解説します。
取引履歴を日頃から整理しておく
暗号資産の損益計算は、過去の取引履歴をもとに行われるため、正確な記録を残しておくことが重要です。履歴が不十分な状態では、正しい所得を算出することができず、申告内容にズレが生じる原因になります。
特に注意したいのが、後からまとめて整理しようとするケースです。取引回数が増えるほど記憶だけで正確に把握することは難しくなり、履歴の抜けや計算ミスが発生しやすくなります。そのため、取引所やウォレットで提供されている履歴データを活用することが有効です。
多くのサービスでは、取引履歴をCSVやPDF形式で出力できる機能が用意されています。これらを定期的に保存しておくことで、後からでも正確に取引内容を確認できる状態を維持できます。
損益計算のルールを正しく理解する
暗号資産は独自の課税ルールがあり、株式や投資信託と同じ感覚で判断すると、誤った理解につながることがあります。特に、次のような基本的なルールは押さえておく必要があります。
- 売却だけでなく、暗号資産同士の交換や支払いでも課税対象になる
- 利益は取引ごとではなく、年間でまとめて計算する
- 損益は平均単価(総平均法など)をもとに計算する
これらのルールを誤って理解していると、実際とは異なる損益で申告してしまうことがありますので、ご注意ください。
不明点は早めに専門家に確認する
専門家に頼らず自分で解決しようとする人は少なくありません。しかし、暗号資産の税務は判断が難しい場面も多く、曖昧な理解のまま対応を進めると、再び申告漏れにつながる可能性があります。
実際、冒頭で紹介した事例は、課税対象の認識が不足していたことで高額な追徴課税が発生したケースです。このようなリスクを避けるためにも、不明点がある場合は早い段階で専門家に確認することが重要です。相談費用が気になる場合でも、税理士事務所によっては無料相談を行っているところもあります。まずは負担の少ない形で確認することも選択肢のひとつです。
このように、早い段階で疑問を解消しておくことが、結果としてリスクを抑えることにつながります。判断を先送りにせず、必要に応じて専門家の力を借りることが重要です。
まとめ

暗号資産で追徴課税が発生する主な原因は、意図的な未申告だけではありません。実際には、課税ルールの認識不足や損益計算のミス、取引履歴の管理不足といった、日常的に起こり得る要因によって発生するケースが主です。
特に、暗号資産同士の交換やDeFi・NFTの取引、海外取引所の利用などは、課税対象であることに気づきにくく、申告漏れにつながりやすいポイントです。こうした特徴を理解せずに取引を行うと、本人に悪意がなくても追徴課税の対象となる可能性があります。
一方で、これらのリスクは事前に防ぐことが可能です。取引履歴の管理や課税ルールの理解を徹底し、不明点をそのままにせず早めに確認することで、申告ミスを避けることができます。
暗号資産は仕組みを正しく理解していれば、過度に恐れる必要はありません。まずは基本的なポイントを押さえ、自分の取引状況を見直すことから始めましょう。


