暗号資産を頻繁に売買している場合、年間の取引件数が数十件から数百件に及ぶこともあります。 その結果、損益計算が複雑になり、意図せず申告漏れが生じるケースもあることでしょう。
ここで気になるのが「申告漏れを放置してしまって良いのか」、もしくは「申告漏れが税務署にバレるのでないか」という点ではないでしょうか。
現在は、取引所からの情報提供や金融機関の取引情報など、税務当局が確認できるデータは拡充しています。 海外取引所を利用しているケースでも例外ではなく、取引や資金移動が完全に見えなくなる訳ではありません。
過去には、暗号資産の利益を申告し忘れていたことにより、東京都内で妻と子供の3人で暮らす40代の男性が、2億円以上の追徴課税を受けることになった事例もありました。
交換分の申告が必要とは思わず、現金化した分を除いて確定申告しなかったが、昨年9月、税務署から申告漏れの指摘を受け、過少申告加算税を含む追徴税額は2億円以上になった。
参照:読売新聞オンライン
この記事では、暗号資産の申告漏れがどのようにバレるのか、その仕組みと背景を解説します。 合わせて、申告に関して留意すべき点についてもご紹介します。
暗号資産の申告漏れがバレるよくあるパターン

暗号資産の申告漏れは、基本的にバレる仕組みになっています。 その理由は、税務署が確認できる情報が増えており、取引内容とのズレが見つかりやすくなっているためです。
バレる仕組みはいくつかあり、例えば以下のようなケースが挙げられます。
- 取引所のデータから発覚するケース
- マイナンバーとの紐づけで発覚するケース
- 銀行口座の入出金から発覚するケース
- SNSの投稿で発覚するケース
- 税務調査のついでに発覚するケース
申告漏れが発覚するルートは、挙げるとキリがありません。 そこで、特に多くの人に関係する代表的な3つの仕組みに絞って、説明していきます。
取引所から税務署にデータが渡る仕組み
暗号資産の国内取引所には、税務当局からの照会に応じて利用者の取引情報を提供する制度があります。 そのため、取引金額や売買履歴などが確認される場合があり、申告内容との整合性が検証される可能性があります。
また、国内取引所では口座開設時に本人確認が義務付けられており、一般的にマイナンバーの提出も求められます。 これにより、取引情報は特定の個人と紐づいた形で管理されているため、匿名で自由に利用できる仕組みではありません。 申告内容と取引履歴に差異がある場合には、税務調査などの過程で把握されることがある訳です。
さらに、詳しくは後述しますが、日本は多くの国と租税条約や情報交換協定を締結しており、一定の条件のもとで海外の金融機関等から情報提供を受ける枠組みも整備されています。 そのため、海外取引所を利用している場合でも、取引が完全に把握不能になるとは限りません。
銀行口座の入出金から利益が分かる仕組み
暗号資産を売却して日本円に換えると、そのお金は多くの場合、銀行口座に振り込まれます。 税務署は、必要があれば銀行に対して取引明細を照会できるため、大きな入金が続いていたり、不自然な動きがあったりすると、その理由を確認することがあります。
銀行側は、税務署からの正式な依頼があれば、口座の入出金履歴を提示しなければなりません。 どの口座に、いつ・どれくらいの金額が入っているかを見れば、暗号資産の売却益があったかどうかは推測できます。
また、暗号資産の取引が多い年は、売却益が発生していなくても大きな入出金が発生しやすくなります。 こうした動きは、給与や一般的な収入のパターンとは違うため、税務署が「念のため確認しよう」と判断するきっかけになることがあります。
銀行口座の情報は、取引所のデータと照らし合わせれば、申告内容と実際の動きに差があるかどうかが分かります。 そのため、銀行口座の入出金は、申告漏れが発覚する代表的なルートのひとつと言えます。
海外取引所からも口座情報が共有される仕組み
海外取引所を利用している場合でも、申告義務が免除される訳ではありません。
日本の税法では、居住者は原則として全世界所得が課税対象となります。 そのため、国内外を問わず、暗号資産取引による所得は申告の対象になります。
個人の区分
定義
課税所得の範囲
居住者
非永住者以外の居住者
次のいずれかに該当する個人のうち非永住者以外の者
・ 日本国内に住所を有する者
・ 日本国内に現在まで引き続き1年以上居所を有する者国内および国外において生じたすべての所得
非永住者
居住者のうち、次のいずれにも該当する者
・ 日本国籍を有していない者
・ 過去10年以内において、日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である者国外源泉所得以外の所得および国外源泉所得で日本国内において支払われ、または国外から送金されたもの
非居住者
居住者以外の個人
国内源泉所得
現在は、各国間で税務情報の共有体制が整備されており、金融口座情報の交換制度(CRS)などの枠組みも運用されています。
さらに、海外取引所から日本の銀行口座に資金を送金した場合、その入出金履歴は国内の金融機関に記録されます。 税務調査等の過程でこれらの情報が確認されることがあり、申告内容との整合性が検証される可能性があります。
このように、海外取引所を利用していることのみを理由に、申告義務が軽減されることはありません。
暗号資産の申告漏れにおける調査件数と追徴税額

国税庁が公表している調査データを見ると、暗号資産取引が重点的な調査対象となっていることが読み取れます。
国税庁が公表した令和4事務年度(2022年〜2023年)の資料では、暗号資産取引を行っている個人に対して615件の実地調査が実施され、そのうち548件で申告漏れが指摘されています。
<暗号資産(暗号資産)等取引を行っている個人に対する調査状況>
➢ 令和4事務年度においては、615 件(前事務年度 444 件)実地調査(特別・一般) を実施しました。
➢ 1件当たりの申告漏れ所得金額は、3,077 万円(同 3,659 万円)となっています。 また、申告漏れ所得金額の総額は 189 億円(同 162 億円)に上ります。
➢ 1件当たりの追徴税額は 1,036 万円(同 1,194 万円)となっています。また、 追徴税額の総額は 64 億円(同 53 億円)に上ります。
調査件数は前事務年度から増加しており、暗号資産が重点的な確認対象のひとつとなっていることがうかがえます。 また、指摘件数や追徴税額の水準からも、暗号資産取引に関する調査が一定の規模で実施されていることが分かります。
この背景には、取引所からの情報提供、銀行口座の入出金情報の照会、国際的な情報交換制度など、税務当局が活用できるデータ基盤の整備が関係していることでしょう。 これにより、申告内容と実際の取引状況との整合性を確認できる環境が以前よりも整備されています。
金額の大小にかかわらず、申告内容に不一致がある場合には、調査の過程で把握される可能性があります。
暗号資産の申告漏れを対応しなかった場合のペナルティ

暗号資産の利益を申告しなかった場合、後日税務署から指摘を受けると、本来の納めるべき税金に加えて延滞税や加算税が課されます。
延滞税は、法定の期限までに納付されなかった税額に対して課されるものです。 支払いが遅れた日数に応じて増加していき、放置期間が長くなるほど負担も大きくなります。
一方、加算税は申告内容に問題があった場合に課されるもので「無申告加算税・過少申告加算税・重加算税」などの種類があります。 申告漏れの態様によって税率が異なり、意図的に隠していたと判断されれば重い割合が適用されます。
これらは本税とは別に加算されるため、結果として納付額が大きく膨らむケースもあります。 実際、国税庁が公表している調査結果でも、暗号資産に関する申告漏れ事案では、本税に加えて延滞税や加算税が課され、多額の追徴となっている例が確認されています。
なお、税務署から指摘を受ける前に自主的に修正申告を行った場合には、加算税の割合が軽減される制度が設けられているため、申告内容に誤りがあると気づいた時点で放置しないのが得策です。 適切に修正申告をおこなえば、制度上の定められた範囲での負担にとどめることができます。
暗号資産の申告漏れに気付いたときの対処方法

申告漏れは誰にでも起こり得ますし、気づいた時点で手続きすれば必要以上のペナルティを避けられます。
重要なのは、暗号資産の申告漏れに気付いた時点で、事実関係を整理し、速やかに適切な手続きをおこなうこと。 対応の基本は、大きく3つに分けられます。
暗号資産の取引履歴から利益を確認する
最初に取るべき行動は、取引履歴を客観的なデータとして整理することです。
多くの暗号資産取引所では、年間取引報告書や取引明細(Statement)をダウンロードできる仕組みが用意されています。 まずは、対象年度のデータを取得し、Excelなどで一覧にまとめましょう。 そのうえで、売却取引だけでなく、暗号資産同士の交換や決済利用など、課税対象となり得る取引を洗い出します。
暗号資産における所得は、単純な売買だけではありません。 例えば、次のようなケースも対象になります。
- 暗号資産を別の暗号資産に交換した(例:BTC→ETH)
- 暗号資産を商品やサービスの決済に使用した
これらを含めて、どの年にいくらの利益または損失が発生しているのか、再計算する必要があります。
税務署へ自主的に申告する
取引内容を整理した結果、申告漏れがあると分かった場合は、修正申告または期限後申告をおこなわなければいけません。
税務署からの指摘を受ける前に自主的に申告すれば、無申告加算税の割合が軽減される制度があります。
税務署からの調査の事前通知の前に自主的に期限後申告をした場合は、納付すべき税金のほかに、納付すべき税金に5パーセントの割合を乗じた金額の無申告加算税がかかります。
税務署からの調査の事前通知の後に期限後申告をした場合(調査による決定を予知する前の期限後申告)には、納付すべき税金のほかに、納付すべき税金に10パーセントの割合を乗じた金額の無申告加算税がかかります。
そのため、申告漏れに気付いた時点で放置せず、所轄の税務署にて速やかに必要な手続きを進めることが重要です。
税理士に相談する
取引件数が多い場合や、過去数年分を遡って計算し直す必要がある場合には、暗号資産の税務に対応している税理士へ相談することも選択肢のひとつです。
暗号資産の損益計算は、取得価額の算定方法や取引所間の移動、ステーキング報酬の扱いなど、判断を要する点が少なくありません。 自己判断で進めると、計算誤りや申告漏れを再度生じさせる可能性があります。
そのため、暗号資産に強い専門家に確認していただきながら、申告する方が得策です。
まとめ:申告漏れに気付いたら速やかに対応を

暗号資産の申告漏れは制度上、そのまま放置できるものではありません。 取引履歴を整理し、所得を再計算したうえで、必要に応じて修正申告または期限後申告をおこなうことが重要です。
自主的な対応には、加算税の軽減措置が設けられている場合もあります。 状況を正確に把握し、適切な手続きを進めることが結果として負担の拡大を防ぐことにつながります。
取引件数が多い場合や、損益計算が複雑な場合には、暗号資産に対応した税理士へ相談することも有効です。
暗号資産の税務は、制度の理解が重要になります。 取引内容を整理して、早めに適切な対応を進めていくことが大切です。

