暗号資産に関するトラブルの中でも、近年増えているのが「所有者の死亡」に関するものです。暗号資産は誕生から10年以上が経過しており、保有したまま亡くなるケースも珍しくなくなってきました。
結論として、暗号資産は相続することが可能です。ただし、相続時には税金が発生するほか、アクセス情報が分からず資産を引き継げないといった問題が生じることもあります。
本記事では、暗号資産の持ち主が死亡した場合に資産はどのように扱われるのか、相続の方法や税金の仕組み、起こり得るトラブルについて整理して解説します。
暗号資産の持ち主が死亡した場合はどうなるのか

暗号資産は、法律上「経済的価値のある財産」として扱われます。国税庁は、相続税の対象となる財産ならびに暗号資産について、次のように示しています。
相続税法では、個人が、金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税の課税対象となることとされています。
暗号資産については、決済法上、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と規定されていることから、被相続人等から暗号資産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることになります。
これらの内容から、暗号資産は金銭と同様に価値を持つ資産として位置付けられており、所有者が死亡した場合には、現金や株式、不動産と同じように相続財産に含まれます。
また、民法では被相続人の財産は包括的に相続されると定められており、特定の資産だけが除外されることはありません。この考え方に基づくと、暗号資産も例外ではなく、相続人が引き継ぐ対象となります。
暗号資産の相続方法|手続きの流れ

暗号資産の所有者が死亡した場合、その暗号資産は相続の対象となり、相続人が引き継ぐことになります。ただし、暗号資産には銀行口座のような自動的な引き継ぎの仕組みがありません。銀行であれば死亡の事実が確認されると口座が凍結され、相続手続きを経て払い戻しがおこなわれますが、暗号資産の場合はそのような仕組みが存在しないため、相続人自身が対応する必要があります。
具体的には、取引所に預けている暗号資産であれば、所定の相続手続きをおこなうことで引き出せる可能性があります。一方で、ウォレットで管理している暗号資産については、リカバリーフレーズや秘密鍵といったアクセス情報を把握しているかどうかで対応が大きく変わります。
これらの情報が分からない場合、相続人であっても資産にアクセスできなくなる可能性があります。つまり、暗号資産は相続の対象ではあるものの、実際に引き継げるかどうかは管理状況に大きく左右される点に注意が必要です。
取引所にある暗号資産の相続手続き
取引所に預けられている暗号資産は、所定の相続手続きをおこなうことで、相続人が引き継ぐことが可能です。銀行口座と同様に、取引所へ申請し、必要な手続きを進めることで資産の移管や払い戻しがおこなわれます。
取引所の相続手続きは、複数のステップに分かれて進みます。一般的な流れは以下の通りです。
- 取引所へ相続発生の連絡をおこなう
- 必要書類(戸籍謄本や遺産分割協議書など)を準備する
- 書類を提出し、内容の確認を受ける
- 相続人の口座へ資産が移管される、または払い戻しがおこなわれる
これらの手続きでは、被相続人と相続人の関係を証明する書類や、誰が資産を受け取るのかを示す書類が求められます。特に、遺言書の有無や遺産分割の状況によって必要書類が変わるため、事前の確認が重要です。
また、暗号資産が含まれている場合、相続人が同じ取引所の口座を持っていないと、資産の移管を受けるために新たに口座開設を求められることがあります。これは、不正利用防止や本人確認の観点から、取引所が相続人の名義を確認する必要があるためです。
なお、相続手続きの具体的な流れや必要書類は取引所ごとに異なります。以下に、代表的な国内取引所の相続手続きページを掲載します。
ウォレットにある暗号資産の引き継ぎ方法
ウォレットで管理している暗号資産は、取引所のような相続手続きをおこなうのではなく、アクセス情報を使って復元することで引き継ぐことになります。この復元に必要となるのが、リカバリーフレーズや秘密鍵といった情報です。
これらはウォレットを作成した際に発行されるもので、資産にアクセスするための唯一の手段となります。そのため、これらの情報を把握しているかどうかが、相続できるかどうかを大きく左右します。具体的には、相続人がウォレットアプリにリカバリーフレーズなどを入力することで、元のウォレットと同じアドレスを再生成し、資産にアクセスできる状態となります。
なお、リカバリーフレーズや秘密鍵が分からない場合は、相続人であっても資産にアクセスできなくなる可能性があります。ウォレットの引き継ぎは手続き自体はシンプルですが、必要な情報が揃っていることが前提となる点に注意が必要です。
暗号資産を相続できないこともある

暗号資産は相続の対象となる財産ですが、実際には相続できないケースも存在します。これは、銀行口座のように管理者が存在する仕組みではなく、資産へのアクセスを個人が管理しているためです。
暗号資産にアクセスするためには、リカバリーフレーズや秘密鍵といった情報が必要になります。これらの情報が確認できない場合、相続人であっても資産に触れることができないかも知れません。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- リカバリーフレーズや秘密鍵が分からず、ウォレットを復元できない。
- どのウォレットを使用していたか分からず、復元方法を特定できない。
- ウォレットを復元しても資産が表示されず、正しくアクセスできているか判断できない。
このような状況に陥ると、暗号資産は存在していても実質的に引き出せない状態となります。つまり、暗号資産は相続の対象ではあるものの、実際に引き継げるかどうかは管理状況に大きく左右される点に注意が必要です。
暗号資産の相続税

暗号資産を相続する場合、相続税の課税対象になります。
被相続人等から暗号資産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることになります。
暗号資産の相続では、単に「相続税がかかる」というだけではなく、評価方法やその後の扱いによって注意すべき点があります。特に、どの時点の価格で評価されるのか、相続後にどのような税金が発生するのかといった点は、相続するにあたって事前に理解しておくことが重要です。
これらの具体的な仕組みについて確認していきます。
相続税の税率について
相続税は、暗号資産を含めたすべての財産に対して無条件に課税されるわけではありません。一定の金額までは非課税となる「基礎控除」が設けられており、この範囲内であれば相続税は発生しません。
基礎控除の金額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の計算式で求められます。例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」までは相続税がかからないという仕組みです。
この基礎控除を超えた部分については、相続税が課税されます。ただし、税額は単純に取得した金額に税率を掛けて計算されるわけではありません。国税庁はこの点について、次のように示しています。
相続税額の算出方法は、各人が相続などで実際に取得した財産に直接税率を乗じるというものではありません。
参照:相続税の税率|国税庁
実際には、課税対象となる遺産総額を法定相続分に応じて按分し、それぞれに税率を適用して計算します。税率は取得金額に応じて段階的に上がる仕組みとなっており、以下のように定められています。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例えば、法定相続人が1人で、相続財産が4,600万円の場合、基礎控除3,600万円を差し引いた1,000万円が課税対象となり、この部分に対して10%の税率が適用される形になります。
このように、相続税は基礎控除を超えた部分に対して累進課税が適用される仕組みになっています。そのため、相続する財産の総額や相続人の人数によって、実際の税負担が変わることを覚えておきましょう。
相続時期の価格で評価される
暗号資産の相続税は、被相続人が死亡した時点の価格を基準に評価されます。購入時の価格や相続後の価格ではなく「亡くなった時点の時価」で計算される点が重要です。
活発な市場が存在する暗号資産は、相続人等の納税義務者が取引を行っている暗号資産交換業者が公表する課税時期における取引価格によって評価します。
ここでいう「課税時期」とは、被相続人が死亡した時点を指します。つまり、その時点での取引所の価格をもとに、相続税の計算に用いる評価額が決まります。
例えば、1BTCを300万円のときに購入し、その後に価格が上昇して、死亡時に1,000万円になっていたとします。この場合、相続税の計算では1,000万円が評価額となり、300万円との差額である700万円ではありません。相続税は「利益」ではなく「相続した時点の財産価値」に対して課税されるためです。
このように、暗号資産の相続税は取得時ではなく「死亡時の時価」で決まるため、価格変動の影響を受けやすい点に注意しましょう。
売却時には別途税金が発生する
相続後に暗号資産を売却する場合、税金の仕組みに注意が必要です。現金化した方が扱いやすいと考えて売却を検討することもありますが、仕組みを理解していないと想定以上の税負担が発生する可能性があります。
暗号資産は、売却した時点で初めて所得税と住民税の課税対象となります。売却益は、売却価格から取得価格を差し引いて計算され、この差額に対して課税がおこなわれます。このときの取得価格は、相続人ではなく、被相続人が購入したときの価格がそのまま引き継がれます。そのため、取得時から価格が大きく上昇している場合、課税対象となる利益も大きくなります。
例えば、被相続人が1BTCを300万円で購入し、その後に価格が上昇して、相続時に1,000万円になっていたとします。この状態で相続人が1,000万円で売却した場合、取得価格は300万円として扱われるため、「1,000万円−300万円=700万円」が利益として計算されます。
この仕組みによって税負担が大きくなる可能性について、日本経済新聞では次のように指摘されています。
価格高騰が激しい仮想通貨は、保有者が亡くなり相続した人が売却すると、相続した人に合計で100%を超える税率の税金がかかる可能性が出てくる。
参照:日本経済新聞
さすがに100%を超えるケースは稀ですが、例えば、相続額が約5,000万円だと相続税と売却時の税金を合わせた負担は30%~40%前後、1億円を超えるようなケースでは60%以上の負担になる可能性もあります。
このように、暗号資産は相続税とは別に売却時の税金が発生するため、状況によっては税負担が大きくなるケースがあります。特に、取得時から大きく値上がりしている場合は、相続後の取り扱いについて慎重に判断することが重要です。
生前にやっておくべき相続対策

暗号資産は相続の対象となる財産ですが、実際には相続できないケースがあったり、税金によって大きく資産が減少してしまう可能性があります。そのため、生前のうちから適切な準備を整えておくことが重要です。
事前に対策を講じておくことで、相続人がスムーズに資産を引き継げるだけでなく、不要なトラブルや税負担を軽減できる可能性があります。ここでは、生前にやっておくべき暗号資産の相続対策について解説します。
リカバリーフレーズを伝えておく
ウォレットで管理している暗号資産は、リカバリーフレーズを把握していなければ、相続人であっても復元することができません。取引所とは異なり、運営会社が資産を管理しているわけではないため、アクセス情報を持っている人しか資産に触れられない仕組みになっているからです。
そのため、生前のうちに、相続人が確認できる形でリカバリーフレーズを保管・共有しておくことが重要です。例えば、紙に記録して安全な場所に保管する方法や、信頼できる家族にのみ伝えておく方法などが考えられます。
ただし、リカバリーフレーズは第三者に知られると、その時点で資産を失うリスクがあります。相続対策として共有する場合でも、保管場所や共有方法には十分な注意が必要です。
生前贈与で分散しておく
生前贈与を活用することで、相続時に一括で課税されるリスクを抑えることができます。相続時にまとめて資産を引き継ぐのではなく、あらかじめ一部を移転しておくことで、課税対象となる金額を分散できるためです。贈与税には、年間110万円までの非課税枠が設けられており、この範囲内であれば税負担をかけずに資産を移転することができます。
暗号資産の場合は、一度現金化してから贈与することで、移転する金額をコントロールしやすくなります。例えば、年間110万円分だけ売却して贈与することで、無理のない範囲で資産を移転していくことができます。
ただし、この方法には注意点もあります。暗号資産を売却した際には、その売却益に対して所得税と住民税が課税されます。給与収入などと合算される「総合課税」の仕組みであるため、所得が多い場合は税率が高くなり、想定以上の税負担が発生する可能性があります。
そのため、税金の仕組みを理解したうえで、計画的に進めることが重要です。
まとめ
暗号資産は相続の対象となる財産であり、取引所に預けている場合は所定の手続きをおこなうことで引き継ぐことができます。一方で、ウォレットで管理している場合は、リカバリーフレーズなどのアクセス情報がなければ、相続人であっても資産に触れることができません。
また、暗号資産の相続では税金の扱いにも注意が必要です。相続時には死亡時の価格で評価されて相続税が発生し、さらに売却した場合には、その利益に対して所得税と住民税が課税されます。特に、取得時から価格が大きく上昇している場合は、税負担が重くなる可能性があります。
このように、暗号資産は相続できる資産ではあるものの、管理方法や税金の仕組みによっては、想定外のトラブルや負担が発生することがあります。こうしたリスクを避けるためにも、生前のうちから適切な管理と相続の対策をおこなっておきましょう。

