暗号資産の取引で利益が出た場合、所得税の確定申告が必要になることがあります。しかし、暗号資産は売却だけでなく、暗号資産同士の交換や報酬の受け取りなどでも所得が発生する場合があるため、申告漏れや無申告になっているケースも珍しくありません。
その際、「自分には税務調査は来ないだろう」と考える方もいることでしょう。しかし、暗号資産取引は国税当局も注視している分野です。実際に、暗号資産の申告漏れにより東京都内の40代男性会社員が2億円以上の追徴課税を受けたケースも紹介されています。
交換分の申告が必要とは思わず、現金化した分を除いて確定申告しなかったが、昨年9月、税務署から申告漏れの指摘を受け、過少申告加算税を含む追徴税額は2億円以上になった。
参照:読売新聞オンライン
こうした背景から、過去の暗号資産取引に申告漏れや無申告の心当たりがある方は、「税務調査はいつ来るのか」と不安に感じている方もいるでしょう。この記事では、暗号資産の税務調査がいつ来るのか、税務調査の対象になる可能性があるケース、税務署から連絡が来た場合の流れ、事前に確認しておくべき資料について解説します。
暗号資産の税務調査はいつ来るのか

暗号資産の税務調査がいつ来るかは、一律には決まっていません。申告後すぐに連絡が来るとは限らず、過去の取引内容や申告内容をもとに、後から確認される可能性があります。
そのため、「何月に来る」や「申告から何年後に来る」と断定して考えるのは危険です。暗号資産の利益を申告していない場合や、申告内容に誤りがある場合は、税務署から連絡が来る前に状況を確認しておきましょう。
税務調査が来る時期は一律には決まっていない
国税庁の資料でも、暗号資産取引について「この時期に税務調査が来る」といった具体的な時期は示されていません。そのため、税務調査が来る時期は、個別の状況によって異なります。ただし、税務署長が更正または決定の処分をおこなえる期間には期限があります。
税務署長が申告内容を修正する「更正」や、無申告の場合に税額を決める「決定」をおこなえる期間は、原則として法定申告期限から5年間とされています。また、偽りや不正の行為によって税金を免れていた場合などは、この期間が7年間になると説明されています(参照:税務手続について|国税庁)。
つまり、申告期限を過ぎてしばらく連絡がないからといって、必ずしも問題がないとは限りません。過去の暗号資産取引に申告漏れや無申告の可能性がある場合は、「今年来なければ大丈夫」と考えるのではなく、早めに申告内容を確認する必要があります。
税務調査が来る場合は原則として事前通知がある
税務調査がおこなわれる場合、原則として納税者に調査の「開始日時・開始場所・調査対象税目・調査対象期間」などを事前通知すると説明されています。そのため、一般的な任意調査であれば、何の連絡もなく突然調査が始まるわけではありません。事前通知を受けた段階で、調査対象となる税目や期間を確認し、必要な資料を整理する流れになります。
ただし、事前通知をおこなうことで正確な事実の把握が困難になる場合や、調査の適正な遂行に支障があると認められる場合には、事前通知をせずに税務調査をおこなうことがあるとも説明されています(参照:税務手続について|国税庁)。
暗号資産取引は税務調査の対象になる可能性がある

暗号資産取引は、税務調査の対象になる可能性があります。暗号資産の売却益、交換による利益、ステーキング報酬などは、所得税の申告対象になる場合があるためです。
特に、暗号資産は複数の取引所やウォレットをまたいで取引することが多く、申告漏れが起こりやすい分野です。自分では単なる資産移動だと思っていた取引でも、実際には課税対象の取引が含まれている場合があります。
国税庁は、暗号資産取引をおこなう個人に対する調査状況を公表しています。令和6事務年度の所得税及び消費税調査等の状況では、暗号資産等を取引している個人に対して613件の実地調査がおこなわれています。また、的確な調査に活用するため、あらゆる機会を通じて収集した資料情報を多角的に分析していると説明しています。
国税庁では、的確な調査に活用するため、あらゆる機会を通じて資料情報の収集を行い、その収集した資料情報を様々な角度から分析し、不正に税金の負担を逃れようとする悪質な納税者に対しては、厳正な調査を実施しています。
この点から、暗号資産取引は「申告しなくても分からない」と考えるべきではありません。国内取引所だけでなく、海外取引所やウォレットを使っている場合でも、取引履歴や入出金の流れを整理しておく必要がある訳です。
税務調査の連絡が来た場合の流れ

暗号資産の取引は、複数の取引所やウォレットをまたぐことがあり、取引回数が多いほど資料の整理に時間がかかります。そのため、税務調査の連絡が来た場合、調査の流れを事前に知っておくことで、慌てず冷静に対処することが可能です。
ここでは、暗号資産の税務調査における流れを解説します。ただし、実際の進め方は個別の状況によって異なる場合があります。
税務署から事前通知がある
税務調査がおこなわれる場合、原則として、税務署から「調査の開始日時・開始場所・調査対象税目・調査対象期間」といった事前通知があります。
事前通知を受けたら、まず対象となる税目と期間を確認します。暗号資産取引であれば、どの年分の所得について確認されるのかを把握することが重要です。
対象期間が分かれば、その期間の取引履歴、入出金履歴、過去の申告書類を整理できます。税理士に依頼している場合は、通知内容を共有し、対応方針を確認しておくとよいでしょう。
調査日程を調整する
税務調査の事前通知を受けた場合でも、指定された日程に必ず対応できるとは限りません。この場合、合理的な理由があるなら、調査日時の変更の協議を求めることができます(参照:税務手続について|国税庁)。
また、国税庁の事務運営指針では、事前通知に先立って納税義務者や税務代理人の都合を聴取し、必要に応じて調査日程を調整したうえで、調査開始日時を決定するとされています。
事前通知に先立って、納税義務者及び税務代理人の都合を聴取し、必要に応じて調査日程を調整の上、事前通知すべき調査開始日時を決定することに留意する。
そのため、どうしても都合が悪い場合は、調査担当者に事情を伝えることになります。ただし、日程調整ができる可能性があるという意味であり、理由なく先延ばしできるわけではありません。
調査日までに必要資料を準備する
調査日までの期間は、必要資料を整理する時間になります。国税庁のパンフレットでは、税務調査の際には、質問検査権に基づく質問に正確に回答し、調査担当者の求めに応じて帳簿書類などを提示または提出するよう説明されています。
税務調査の際には、質問検査権に基づく質問に対して正確に回答してください。また、調査担当者の求めに応じ帳簿書類などを提示又は提出してください。
参照:税務手続について|国税庁
暗号資産取引の場合は、取引所の取引履歴、入出金履歴、ウォレット間の送金記録、損益計算に使った資料などを確認しておく必要があります。国内取引所だけでなく、海外取引所やDeFiを利用している場合は、それらの履歴も整理しておかなければいけません。
また、税務調査で必要がある場合、調査担当者が納税者の承諾を得たうえで、提出された帳簿書類などを預かることがあります。その際は預り証が交付され、不要になった場合には返還されます。
調査後に追加質問や結果の説明を受ける
税務調査では、当日の確認だけで終わらず、後日追加で資料の確認や質問を受ける場合があります。調査の結果、申告内容に誤りが認められた場合や、申告義務があるにもかかわらず申告していなかったことが判明した場合には、調査結果の内容が説明されます。
一方で、申告内容に誤りが認められない場合や、申告義務がないと認められる場合には、その旨が書面で通知されます。つまり、税務調査では、申告漏れがある場合だけでなく、誤りがない場合にも一定の結論が示される流れになります。
暗号資産の税務調査に備えて確認すべき資料

暗号資産の税務調査に備えるには、過去の取引を説明できる資料を整理しておく必要があります。暗号資産は、取引所内の売買だけでなく、ウォレット間の送金、海外取引所の利用、DeFiでの運用などが絡むことがあります。
資料が不足していると、どの取引が売買で、どの取引が単なる資産移動なのかを説明しにくくなります。税務調査の連絡が来てから集めようとすると時間がかかるため、心当たりがある場合は早めに確認しておくことが重要です。
取引所の取引履歴・入出金履歴
まず確認すべき資料は、暗号資産交換業者の取引履歴と入出金履歴です。売買履歴だけでなく、日本円の入出金、暗号資産の送金、受取履歴も確認しておく必要があります。
特に、複数の取引所を使っている場合は、一部の履歴だけで損益を計算すると申告漏れが発生する可能性があります。ある取引所で購入した暗号資産を別の取引所へ送金し、そこで売却している場合、全体の流れを見なければ正しい損益を把握できません。
過去に使っていた取引所がある場合も、ログインできるか確認しておくことが大切です。すでに使っていない取引所でも、過去の取引履歴が申告内容の確認に必要になる場合があります。
ウォレット間の送金記録
暗号資産を自分のウォレットに移動している場合は、ウォレット間の送金記録も確認しておく必要があります。ウォレット間の移動自体は通常、売却益が発生する取引とは異なりますが、記録がなければ単なる移動なのか、第三者への送金なのかを説明しにくくなります。
例えば、取引所からMetaMaskなどのウォレットに送金し、その後DeFiで運用した場合、取引所の履歴だけでは全体像を把握できません。ウォレットアドレス、送金日時、送金数量、送金先の用途などを整理しておくと、後から取引内容を確認しやすくなります。
また、暗号資産はブロックチェーン上に取引記録が残りますが、それだけで税務上の説明が完結するわけではありません。どのアドレスが自分の管理するウォレットなのか、どの送金が資産移動なのかを説明できる状態にしておくことが重要です。
過去の確定申告書と損益計算資料
過去に暗号資産の利益を申告している場合は、確定申告書と損益計算資料を確認しておきます。申告書だけでは、どの取引をもとに所得を計算したのか分かりにくいためです。
損益計算に使った取引履歴、計算ソフトの出力データ、税理士へ提出した資料などが残っていれば、当時の計算根拠を確認できます。後から税務調査を受けた場合でも、どのような前提で申告したのかを説明しやすくなります。
一方で、過去の申告書と取引履歴を照合した結果、申告漏れに気づくこともあります。その場合は放置せず、修正申告や期限後申告が必要かどうかを確認することが大切です。
海外取引所・DeFi・報酬関連の記録
海外取引所、DeFi、ステーキング報酬、エアドロップなどを利用している場合は、関連する記録も確認しておく必要があります。これらは国内取引所の年間取引報告書だけでは把握できないことがあるためです。
海外取引所では、取引履歴の取得形式や保存期間が国内取引所と異なる場合があります。アカウントにログインできるうちに、取引履歴や入出金履歴をダウンロードしておくと安心です。
DeFiやステーキングでは、報酬を受け取ったタイミングや、その後に売却・交換したタイミングが関係する場合があります。取引の種類が複雑な場合は、自分だけで判断せず、暗号資産の税務に対応できる税理士へ相談した方が安全です。
税務調査の連絡が来る前に申告漏れへ気づいた場合の対応

暗号資産の申告漏れに気づいた場合は、税務調査の連絡を待つべきではありません。まずは取引履歴と申告内容を確認し、どの年分にどの程度の申告漏れがあるのかを整理する必要があります。
国税庁のパンフレットでは、納める税金が少なすぎた場合や還付される税金が多すぎた場合、申告内容の誤りは修正申告により訂正できると説明されています。また、税務調査の前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税は課されないとされています。ただし、延滞税が課される場合があります。
まずは取引履歴と申告内容を照合する
申告漏れの可能性に気づいたら、まず過去の取引履歴と確定申告書を照合します。暗号資産の所得は、取引所ごとの利益だけでなく、すべての取引を合算して確認する必要があります。
確認すべきなのは、暗号資産を売却した取引、暗号資産同士を交換した取引、商品やサービスの決済に使った取引、報酬として受け取った暗号資産などです。これらの取引が申告に含まれているかを確認します。
この段階で重要なのは、感覚で「たぶん大丈夫」と判断しないことです。取引履歴を見ないまま判断すると、利益が出ていた取引や報酬の受取を見落とす可能性があります。
申告漏れがある場合は修正申告や期限後申告を検討する
過去に確定申告していたものの、暗号資産の所得が漏れていた場合は、修正申告を検討します。申告自体をしていなかった場合は、期限後申告が必要になる場合があります。
修正申告や期限後申告をおこなうと、不足していた税額を納める必要があります。また、状況によっては延滞税や加算税が発生する場合があります。ただし、税務調査の連絡が来る前に自主的に修正申告をおこなうことで、過少申告加算税の扱いが変わる場合があります。
税務署からの調査の事前通知の前に自主的に修正申告をした場合であれば、過少申告加算税はかかりません。税務署からの調査の事前通知の後に修正申告(調査による更正を予知する前の修正申告)をした場合には、新たに納める税金のほかに、新たに納める税金に5パーセントの割合を乗じた過少申告加算税がかかります。ただし、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については10パーセントの割合になります。
判断が難しい場合は税理士に相談する
暗号資産の取引が多い場合や、海外取引所・DeFi・ステーキング報酬などが関係する場合は、自分だけで正確に判断するのが難しいことがあります。取引の種類によって、所得の発生時点や計算方法の確認が必要になるためです。
そういった場合、税理士に相談するのがおすすめです。税務代理などの業務をおこなえるのは税理士に限られており、その道のプロなので、税務代理や税務書類の作成、税務相談などまとめて引き受けてくれます。
税務調査の連絡が来てから慌てて相談するよりも、申告漏れの可能性に気づいた時点で相談した方が、資料整理や申告のやり直しを進めやすくなります。暗号資産の税務に対応している税理士であれば、取引履歴の整理や損益計算の進め方についても相談できます。
まとめ|暗号資産の税務調査は時期を待つより早めの確認が重要
暗号資産の税務調査がいつ来るかは、一律には決まっていません。ただし、税務調査がおこなわれる場合は、原則として事前通知があり、調査の開始日時、場所、対象税目、対象期間などが伝えられます。
もしも、取引内容に不備があると判明した場合、事前通知を待つよりも、自ら申告した方が過少申告加算税がかかりませんのでおすすめです。ただし、そこでも不備があったら意味がありませんので、税理士に相談しながら状況を整理しましょう。
税務調査の連絡が来る前に対応を進めることで、必要な資料を準備しやすくなり、申告内容の見直しにも早く着手できます。
