暗号資産を狙ったハッキングや詐欺は、決して珍しいものではありません。実際に、暗号資産交換業者が不正アクセスを受けて顧客資産が流出した事例や、SNS・マッチングアプリを通じて投資話を持ちかけられ、暗号資産を送金してしまう事例も発生しています。

男性はこれを信じて3月上旬から4月下旬までの間に18回にわたり自身の銀行口座から開設した暗号資産取引所の口座に振現金合わせて1億8980万円をり込み、だまし取られました。

参照:FNNプライムオンライン

外部アドレスに送金された暗号資産は、基本的に取り戻せません。そのため、資産を取り返せない場合に「盗まれた分を経費にできるのか」や「確定申告で税金を減らせるのか」が気になる方もいるはずです。

結論からいうと、暗号資産を失った場合の税務処理は、被害の内容によって扱いが変わる可能性があります。不正アクセスによって本人の意思に反して暗号資産が移転した場合と、詐欺サイトや偽の投資案件に騙されて自分で送金した場合では、同じように扱えるとは限りません。

また、取引所のハッキング被害などで補償金を受け取った場合は、その補償金が課税対象になるかどうかも確認が必要です。

この記事では、税理士事務所・会計事務所が公開している情報や国税庁の資料をもとに、暗号資産を失った場合における税金の扱いについて整理します。個別の申告可否を判断するものではないため、実際に申告する際は、暗号資産の税務に詳しい税理士へ確認してください。

暗号資産を失った場合に確認すべき税務上の考え方

暗号資産を失った場合、最初に確認したいのは「どのような経緯で資産を失ったのか」です。税務上は、以下のケースで整理が変わる可能性があるためです。

  • 本人の意思に反して奪われたケース
  • 騙されて自分で送金したケース

例えば、ウォレットが不正アクセスされ、暗号資産が勝手に送金された場合は、盗難として雑損控除の対象となる可能性があります。一方で、ロマンス詐欺や偽取引所への送金のように、自分で暗号資産を送金した場合は、詐欺による損失として扱われ、雑損控除の対象外となる可能性があります。

ただし、暗号資産の被害は「盗難・詐欺・横領」などの線引きが難しい場合があります。特にフィッシング被害では、「自分で秘密鍵を入力した」と見るのか、「本人の意思に反して資産を奪われた」と見るのかで、評価が変わる可能性があります(参照:カオーリア会計事務所)。

盗難に該当する場合は雑損控除の対象となる可能性がある

不正アクセスや秘密鍵の窃取により、本人の意思に反して暗号資産が移転した場合は、盗難として扱われる可能性があります。この場合、経費算入というより、雑損控除の対象となるかを検討する流れになります。

暗号資産の盗難(ハッキング・フィッシング等)による損失は雑損控除の対象となりうる。

参照:カオーリア会計事務所

雑損控除とは、災害・盗難・横領によって資産に損害を受けた場合に、一定の金額を所得から控除できる制度です。暗号資産の盗難被害についても、被害の内容によっては雑損控除を検討できる可能性があります(参照:国税庁)。

暗号資産のハッキング被害が常に雑損控除の対象になるとは限りません。暗号資産は物理的な財物ではないため、従来の「盗難」と同じように扱えるかについては、慎重な判断が必要です。

例えば、柳谷憲司税理士事務所の記事では、暗号資産は一般的に有体物に該当しないため、ハッキングによるデータ改竄を窃盗と評価することは難しいとしつつ、スキミング犯罪と同様に扱われるのであれば雑損控除の対象になり得ると整理されています。

しかしながら、スキミング犯罪 ( 他人のキャッシュカードやクレジットカードの磁気記 録情報を不正に読み出してコピーを作成し使用する犯罪行為)より預貯金を引き出された場合は、警察署に被害届を提出しそれが受理した旨の証明があれば雑損控除の対象となるとされており(平成17年2月23日付「『スキミング犯罪』等による損失の雑損控除申告のための警察における証明事務の取扱いについて」)、暗号資産のハッキングの場合もスキミング犯罪と同様に取り扱われるのであれば、雑損控除の対象になり得ると考えられます。

参照:柳谷憲司税理士事務所

不正アクセスでウォレットから勝手に送金されたケース

ウォレットが不正アクセスされ、本人が操作していないにもかかわらず暗号資産が外部アドレスへ送金された場合は、盗難として扱われる可能性があります。この場合は、被害発生時の状況、送金履歴、トランザクションID、不正アクセスの痕跡などを整理する必要があります。

税務上、雑損控除を検討するには、被害が本人の意思に基づかない外部的な要因で発生したことを説明できる資料が重要です。警察への相談記録や被害届の受理番号なども、後から状況を説明するための資料になります。

秘密鍵やリカバリーフレーズを盗まれて資産が移転したケース

秘密鍵やリカバリーフレーズを第三者に盗まれ、ウォレット内の暗号資産が移転した場合も、盗難として整理できる可能性があります。ただし、フィッシングサイトに自分で入力してしまった場合は、詐欺として評価される可能性もあります。

そのため、「秘密鍵を盗まれた」という一言だけで判断するのではなく、どのような経緯で第三者に知られたのかを整理することが重要です。

詐欺に該当する場合は雑損控除の対象外となる可能性がある

ロマンス詐欺、偽取引所、偽の投資サイトなどに騙され、自分で暗号資産を送金した場合は、盗難ではなく詐欺として扱われる可能性があります。この場合、雑損控除の対象外となる可能性があります。

雑損控除の対象は「災害・盗難・横領」による損失です。詐欺については、所得税法の雑損控除について触れたうえで、この中に含まれないと整理されています。

上記62条、72条のいずれも、「災害、盗難、横領」を対象としており、詐欺は、「災害、盗難、横領」のどれにも該当しないため、暗号資産の詐欺による損失に関しては、両条項の適用はない、と言えそうです。

参照:安田英介 公認会計士・税理士事務所

このため、詐欺で暗号資産を送金してしまった場合は、「盗まれたのだから雑損控除を使える」と単純には考えない方がよいです。騙された結果であっても、自分の操作によって送金している場合は、盗難とは異なる扱いになる可能性があります。

ロマンス詐欺で暗号資産を送金したケース

ロマンス詐欺では、SNSやマッチングアプリなどで知り合った相手から投資話を持ちかけられ、暗号資産を送金してしまうケースがあります。この場合、本人が送金操作しているため、税務上は盗難ではなく詐欺として整理される可能性があります。

詐欺として扱われる場合、雑損控除の対象外となる可能性があります。ただし、後述するように、暗号資産が雑所得の基因となる資産に該当する場合は、必要経費算入を検討できる可能性があります。

偽取引所や偽投資サイトに暗号資産を送金したケース

偽取引所や偽投資サイトに暗号資産を送金した場合も、詐欺として扱われる可能性があります。画面上では利益が増えているように見えても、実際には出金できず、追加の手数料や税金名目でさらに送金を求められるケースもあります。

このようなケースでは、詐欺を立証するために、以下のような情報を集めて保存しておくことが重要です。

  • 送金履歴
  • 相手とのやり取り
  • 誘導されたサイトのURL
  • 表示されていた残高画面
  • 送金先アドレス

税務上の判断だけでなく、警察や専門家へ相談する際にも必要な資料になります。

詐欺による損失は必要経費算入を検討できる可能性がある

詐欺による損失は、雑損控除の対象外となる可能性があります。だからといって、税務上まったく考慮できないとは限りません。暗号資産が雑所得を生むための資産、または雑所得の基因となる資産に該当する場合、所得税法第51条第4項により、必要経費算入を検討できる可能性があります。

安田英介公認会計士・税理士事務所の記事では、詐欺による損失について、通常の必要経費としては認められにくいとしつつ、所得税法第51条第4項の資産損失の必要経費算入を検討しています。

また、カオーリア会計事務所の記事でも、詐欺による損失は雑損控除の対象外としつつ、所得税法第51条第4項により、雑所得の必要経費に算入できる可能性があると整理されています。

雑所得の基因となる資産に該当するかが論点になる

暗号資産の詐欺損失を必要経費として扱えるかを考える際は、その暗号資産が「雑所得の基因となる資産」に該当するかが重要になります。

暗号資産を投資目的で保有し、売却や交換によって利益を得ることを想定していた場合は、雑所得の基因となる資産として整理できる可能性があります。一方で、保有目的や取引実態によって判断が変わる可能性があるため、個別確認が必要です。

ここで重要なのは、「詐欺で失ったから必ず経費にできる」ということではありません。暗号資産の保有目的、取引履歴、損失が確定しているかどうか、補償の有無などを整理したうえで、税理士に確認する必要があります。

必要経費に算入できる金額は雑所得の金額が上限になる可能性がある

詐欺による暗号資産の損失を必要経費に算入できる場合でも、無制限に控除できるわけではありません。所得税法第51条第4項では、雑所得の金額を限度として必要経費に算入する考え方が示されています。

そのため、その年の暗号資産取引による雑所得が少ない場合や、そもそも雑所得が発生していない場合は、損失を十分に控除できない可能性があります。また、雑損控除と異なり、翌年以降への繰越控除が認められないと整理されるケースもあります。

必要経費算入はその年分の雑所得の金額が上限であり、雑所得がゼロまたはマイナスの場合は損失を控除しきれない。また、3年間の繰越控除も認められないため、雑損控除と比較して救済の範囲は限定的である。

参照:カオーリア会計事務所

取引所のハッキングで補償金を受け取った場合の税務上の扱い

個人のウォレットではなく、暗号資産交換業者がハッキング被害を受け、預けていた暗号資産を返還できなくなるケースもあります。この場合、後日、暗号資産の代わりに日本円などで補償金を受け取ることがあります。

補償金を受け取った場合は、「損害賠償金だから非課税」とは限りません。国税庁は、暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合の課税関係について、タックスアンサーで見解を示しています。

一般的に、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来所得となるべきものまたは得られたであろう利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税にならないものとされています。

ご質問の課税関係については、顧客と暗号資産交換業者の契約内容やその補償金の性質などを総合勘案して判断することになりますが、一般的に、顧客から預かった暗号資産を返還できない場合に支払われる補償金は、返還できなくなった暗号資産に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で暗号資産を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、本来所得となるべきものまたは得られたであろう利益を喪失した部分が含まれているものと考えられます。

したがって、ご質問の補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となります。

参照:国税庁

国税庁は、返還できなくなった暗号資産に代えて支払われる補償金について、暗号資産を売却して金銭を得た場合と同じ結果になると説明しています。そのうえで、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税対象になるとしています。

被害対応にかかった費用は経費算入を検討できる場合がある

暗号資産そのものの損失とは別に、被害対応のために支払った費用についても確認が必要です。例えば、以下のような費用がかかる場合があります。

  • 被害状況の調査
  • 取引履歴の整理
  • 税理士への相談
  • 申告書作成
  • ウォレットの状態確認

これらの費用は、暗号資産取引との関連性を説明できる場合に、必要経費として検討できる可能性があります。ただし、全ての費用が経費になるわけではありません。支出の目的、暗号資産取引との関係、領収書や請求書などの証拠が必要です。

税務上の扱いは個別判断になるため、実際に経費として処理する場合は、支払内容が分かる資料を揃えたうえで税理士へ確認してください。

被害状況の調査や取引履歴の整理にかかった費用

暗号資産を失った場合、まず必要になるのが取引履歴や送金履歴の整理です。どの取引所から、どのウォレットへ、いつ、いくら送金したのかを確認しなければ、損失額や被害内容を説明できません。

暗号資産の損益計算ツール、取引履歴の整理サービス、ブロックチェーン上のトランザクション調査などに費用がかかった場合は、暗号資産取引との関連性を説明できる可能性があります。

ただし、家計管理や個人的な記録整理など、暗号資産取引と直接関係しない費用まで経費にできるとは限りません。請求書や利用明細に、何のための費用だったのかが分かる形で残っていることが重要です。

税理士への相談費用や申告書作成費用

暗号資産のハッキング被害や詐欺被害では、税理士への相談費用が発生することがあります。雑損控除を検討する場合も、必要経費算入を検討する場合も、税務上の判断には専門的な確認が必要です。

暗号資産取引に関する確定申告、損益計算、被害額の整理、申告書作成などのために税理士へ支払った費用は、必要経費として検討できる可能性があります。

ただし、暗号資産取引と関係のない相続相談、家計相談、法人設立相談などが含まれている場合は、費用の内容を分けて考える必要があります。請求書の内訳を残しておくと、後から説明しやすくなります。

ウォレットの確認や復旧可能性の調査にかかった費用

ハッキングされたと思っていても、実際にはウォレットにログインできないだけ、別のウォレットで資産が表示されていないだけ、対応ウォレットが異なるだけというケースもあります。この場合、資産の所在確認や復旧可能性の調査が必要になることがあります。

ウォレットの確認、秘密鍵やリカバリーフレーズの形式確認、ブロックチェーン上の残高確認などに専門家へ依頼した場合、その費用は暗号資産取引との関連性を説明できる可能性があります。

ちなみに、復旧や調査を依頼する際は、秘密鍵やリカバリーフレーズを安易に第三者へ共有してはいけません。これらの情報を知られると、ウォレット内の資産を移動されるリスクがあります。相談先の実態、契約内容、費用、作業範囲を確認したうえで依頼することが重要です。

雑損控除や必要経費算入を検討するなら証拠を残しておく

暗号資産を失った場合、税務上の扱いを検討するには証拠の保全が重要です。被害の事実や損失額を説明できなければ、雑損控除や必要経費算入を検討することが難しくなる可能性があります。

証拠を残す目的は、単に税務申告のためだけではありません。警察、弁護士、税理士、取引所、ウォレット調査の専門家へ相談する際にも、客観的な資料が必要になります。

取引履歴・送金履歴・トランザクションIDを保存する

まず保存すべきなのは、暗号資産の取引履歴と送金履歴です。取引所からの出金履歴、ウォレットの送金履歴、送金先アドレス、トランザクションIDは、被害の流れを確認するうえで重要です。

ブロックチェーン上の取引は公開されている場合がありますが、取引所のアカウント情報や出金履歴は、後から取得できなくなる可能性があります。そのため、被害に気づいた時点で、CSVファイルやスクリーンショットなどで保存しておく必要があります。

警察への相談記録や被害届の情報を残す

ハッキングや詐欺の被害に遭った場合は、警察への相談記録や被害届の情報も残しておきましょう。雑損控除を検討する場合、盗難被害を裏付ける資料として、被害届の受理番号や受理証明書が重要になる可能性があります。

また、詐欺被害の場合でも、警察へ相談した記録があれば、被害の事実を説明しやすくなります。相手とのやり取り、送金先、被害額、被害に気づいた日時などを整理したうえで相談すると、説明がしやすくなります。

専門家への相談内容や領収書を保管する

税理士、弁護士、ウォレット調査の専門家などへ相談した場合は、相談内容や領収書を保管しておきましょう。どのような目的で、どのような業務を依頼し、いくら支払ったのかを説明できることが重要です。

特に、被害対応にかかった費用を経費として検討する場合は、領収書だけでなく、請求書や契約書、メールのやり取りなども残しておくと、支出の内容を説明しやすくなります。

暗号資産を失った場合は自己判断で申告せず専門家に相談する

暗号資産をハッキングや詐欺で失った場合、税務上の扱いは一律ではありません。不正アクセスによる盗難であれば雑損控除の対象となる可能性がある一方で、詐欺で送金した場合は雑損控除ではなく必要経費算入を検討する流れになる可能性があります。

また、取引所のハッキングによって補償金を受け取った場合は、その補償金が雑所得として課税対象になる可能性があります。盗まれた暗号資産そのもの、詐欺で失った暗号資産、補償金、被害対応費用は、それぞれ分けて考える必要があります。

自己判断で申告すると、後から申告内容の修正が必要になる可能性があります。まずは取引履歴、送金履歴、トランザクションID、警察への相談記録、専門家への支払い資料などを整理し、暗号資産の税務に詳しい税理士へ相談してください。

なお、税務判断とは別に、暗号資産が本当に流出しているのか、ウォレット上に残っている可能性がないのかを確認したい場合は、ウォレットの状態確認や復旧可能性の調査も必要です。秘密鍵やリカバリーフレーズを保有している場合は、資産に再アクセスできる可能性もあるため、状況に応じて専門家へ相談してください。